『対米依存の起源――アメリカのソフト・パワー戦略』 (岩波現代全書) 松田 武 著

  • 2015.05.09 Saturday
  • 07:02

『対米依存の起源  アメリカのソフト・パワー戦略』

  (岩波現代全書)

  松田 武 著

   ⭐⭐⭐⭐⭐

   大学の権威主義と結びつく対米依存

 

 

本書は松田の過去の著作『戦後日本におけるアメリカのソフト・パワー』を再編集して加筆したものです。

アメリカにとって戦後日本が共産主義化することを避けることは最大の関心事でした。
そのため、日本の知識人にアメリカ文化への関心を持たせる必要がありました。
本書はロックフェラー財団が中心となって、日本の親米化をどのように進めていったのか、
主にアメリカ側の思惑から描き出しています。

アメリカ文化を紹介する「文化センター」の設立や、
東大をはじめとするアカデミックな領域への運動が実証的に示されていて、
歴史学専門らしい、しっかりした内容になっています。

ロックフェラー財団とスタンフォード大学の援助を受けて、
東大がアメリカ学会を開くようになると、
京大も関西でアメリカ研究セミナーを開こうとして、
アメリカとの関係を独占したい東大と割り込みたい京大との間で争いが起こったというのが、
いかにも日本らしくて面白かったです。
戦時中の陸軍と海軍のように、日本はいつでも党派争いをするのですね。

最終章で松田はアメリカのソフト・パワーの悪影響について分析しています。
アメリカのソフト・パワーが日本の大学のヒエラルキーを強化したという指摘は重要だと思いました。
ロックフェラー財団は日本の大学の権威主義とセクショナリズムを問題視していましたが、
結局は戦前と似たピラミッド型の序列(東大を頂点とした序列化)の復活を手助けしてしまったと松田は言います。

もうひとつの悪影響は、言うまでもなくアメリカへの「甘え」を生んでしまったことです。
松田はアメリカの意図に反した皮肉な結果として対米依存をとらえています。

  要するに、占領期間中それ以後も、米国の「寛大な」ソフト・パワーは、

 その民主化の意図に反して、日本の高等教育制度の序列化ならびに中央集権

 化に、直接にまでと言わずともきわめて重大な役割を果たしたし、また戦後

 日本のエリート知識人を精神的にアメリカに依存する「弱々しい人間」にし

 てしまったように思われる。そして、総司令部の占領当局の指令と指導の下

 に民主的な占領諸改革が実施されたにもかかわらず、多くの日本人は米国の

 ソフト・パワーに対する甘えの態度と依存度を強め、民主主義を自分のもの

  として主体的に育てるどころか、むしろ民主主義は商業主義と消費主義に堕

 することになったと言えよう。

最終章の最後の文の引用ですが、非常に重みのある指摘だと思いました。

 

 

 

「沖縄 何が起きているのか 2015年 04 月号 : 世界 別冊」 (岩波書店)

  • 2015.04.15 Wednesday
  • 07:05

「沖縄 何が起きているのか 2015年 04 月号 : 世界 別冊」

  (岩波書店)

 

   ⭐⭐⭐⭐⭐

   沖縄に甘えないために

 

 

僕は観光でも沖縄に行ったことはありませんし、
沖縄出身の友人もいません。
正直に言えば、沖縄問題には見て見ぬフリをしたい気持ちもあります。

でも、それもまずいよなあ、と思って本書を買いました。
ほとんど義務感みたいなものです。
日本人ならば米軍基地問題に無関係というわけにはいかないので、
せめて問題がどのようなものなのか、知る必要はあると思ったのです。

僕は沖縄問題にまったく詳しくないので、
とりあえず中の記事はすべて目を通しました。
僕の勉強不足のせいで、理解できた部分は多くないかもしれませんが、
それでも知って良かったと思えることは多々ありました。

たとえば、
これまで沖縄の人々は日本人になろうと努力してきた、ということ。
心情的には沖縄の人たちは日本人になりたいようなのです。
むしろ、本土やアメリカの差別意識によって彼らの気持ちは裏切られてきました。

沖縄の独立は追い込まれて仕方なく選ぶ手段だ、という主張も多くありました。
本心は日本人になりたい、でも負担ばかり押しつけられるのなら、
もう独立する以外に仕方がない、という沖縄の人々の心情を思うと、
無関心でやり過ごしてきた自分を振り返らざるをえません。

内容のすべてには触れられませんが、
尖閣諸島に対処するための戦力配備にオスプレイや水陸両用車を輸送する強襲揚陸艦を持たず、
時代遅れの海兵隊の配備を優先している、という半田滋の指摘や、
米軍基地の返還後のショッピングモールの経済効果が大きく、
実は沖縄は基地に依存した経済ではなく、基地で経済的に損している、という川瀬光義や前泊博盛の指摘は、
非常に興味深いものでした。

恥ずかしながら、僕は今の沖縄県知事の翁長さんが、
もともと自民党の保守系政治家であることも知りませんでした。
沖縄は現在「オール沖縄」として左右のイデオロギーを超えた団結をしているようです。
その点では、右だ左だと騒ぎ続けている本土の方が圧倒的に遅れています。

翁長知事の「甘えているのは、沖縄ですか。それとも本土ですか」という言葉が印象的でした。

Amazon は定価の1080円で売っていないようなので、本屋で購入する方がいいかもしれません。

 

 

 

『終わりなき危機~日本のメディアが伝えない、世界の科学者による福島原発事故研究報告書~』 ヘレン・カルディコット(監修)著

  • 2015.03.31 Tuesday
  • 23:12

『終わりなき危機~日本のメディアが伝えない、世界の科学者による福島原発事故研究報告書~』(ブックマン社)

 ヘレン・カルディコット(監修)著/河村 めぐみ 訳

   ⭐⭐⭐⭐

   危機に危機を感じない精神は堕落なのか

 

 

うまく言えませんが、
この本に衝撃を受けなかったことが僕には衝撃でした。

中には衝撃的な内容も含まれているはずなのですが、
たいして深刻に感じることができないのです。

この本に問題や不満があるという話ではありません。
海外の学者の科学的分析を知るのは大事だと思います。
この本の意義を理解しながらも、
衝撃を感じない自分にどうしようもなく苛立つのです。

事故当時は毎日破滅がいつ訪れるか、という緊張を感じていました。
自分の生活や大事な人の命が危うい、という緊迫したあの暗い感覚はどこにいったのか。
放射能や放射性物質が恐ろしい、という科学的知見では、
その感覚が呼び起こされることはありませんでした。

癌になる確率が上がる(特に子供と女性)こと、
福島の動物に異常が多く見られること、
チェルノブイリと似たような事態に陥るという指摘が多くありました。

しかし、チェルノブイリで起こったことを僕たちが知らない時点で、
福島でも同じことが繰り返されることがだいたい予想できます。

つまり、僕たちは知りたくないのです。
原発問題を深刻に考えるなら、チェルノブイリのことを必死に調べそうなものです。
でも、それをしない。
なぜか?
たぶん、僕たちは知りたくないのです。

たとえ知ったとしても、打つ手があるわけではない。
使用済み核燃料の問題は本当に深刻だと思いますが、
打つ手がなさすぎて、知ると不幸になる感じです。
原発をやめる手はありますが、それでもこれまでの問題は残ります。

考えてみれば、原発だけではありません。
地球温暖化にしても、深刻な危機は想像できるのに何もできません。
日本は国家の借金にしても未来のツケにして逃げています。

結局、資本主義とはそういうことなのではないでしょうか。
未来の果実を先取りしてむしり取ることを価値としている。
永遠に続く未来が想定されてこそ動き続けるシステムです。

だから、未来が続かないという事態を認めてはいけないのです。
とんでもない未来に直面しそうになっても、
僕たちは「未来はわからない」ことを頼りに知らんぷりを続けなくてはなりません。
それを堕落というべきでしょうが、僕にはそう言い切る自信がありません。

 

 

 

『アイヌ学入門』 (講談社現代新書) 瀬川 拓郎 著

  • 2015.03.17 Tuesday
  • 21:52

『アイヌ学入門』 (講談社現代新書)

  瀬川 拓郎 著 

 

   ⭐⭐⭐⭐

   文化交流からアイヌ文化を理解する

 

 

アイヌ研究者の本だけあって、新書といっても内容は硬派です。

アイヌは縄文人の末裔として、近世まで縄文時代と変わらない生活をしていたと考えられがちです。
しかし、瀬川はアイヌも時代によって変化してきた存在だとして、
交易民としてのアイヌの姿を描き出そうとしています。

瀬川は周辺民族との交流を丹念に調べながら、アイヌの文化に多方向からアプローチしていますが、
アイヌの知識に乏しかった僕には、本書の内容は驚きの連続でした。

アイヌ語は周辺の言語から孤立した独特の言語であるとか、
アイヌには一部の死者をミイラにする風習があったとか、
オホーツク人と沈黙交易をしていたとか、
そのオホーツク人と戦って同化したとか、
恥ずかしながら知らないことだらけでした。

アイヌの祭祀などが日本の影響を受けて成立していたことを、
瀬川は丁寧に検証していますが、
手続きが学術的すぎるのが素人には縁遠くて、
アイヌの生き生きとした実態をもっと優先して書いてほしい気もしました。

 

 

 

『永続敗戦論──戦後日本の核心』 (atプラス叢書04) 白井 聡 著

  • 2013.12.29 Sunday
  • 11:57

『永続敗戦論──戦後日本の核心』 (atプラス叢書04)

  白井 聡 著

 

   ⭐⭐⭐⭐

   国体の敵はみんな左翼にされる国

 

 

「永続敗戦」とはズバリ戦時中の「国体」の延命措置であるというのが白井の主張です。

勝者のアメリカと敗者の日本の権力者(天皇?)が裏取引をして、
アメリカは実効支配を手に入れ、日本は体制維持を実現したという戦後日本の構造は、
ある程度認めざるを得ないものと思います。
(だから反発する人も「いまさら……」と言うんでしょう)

さて、僕が面白いと思ったのは、近衛文麿の上奏文のくだりです。
国体の維持の障害になるものは、右翼であっても左翼とみなすというところは、
日本のねじれた右翼左翼的なものをいい得ている気がします。
要は右翼も左翼もなく、体制順応か否かしかないということでしょう。
右翼にも右翼的な中身はなく、体制順応をそう言っているだけ。
だからアメリカに国を売る売国奴を右翼は攻撃したりしないんですね。
(戦前はあった気がするので、やっぱ戦後体制下のアメリカに去勢された右翼なんでしょう)

体制順応しない奴はみんな左翼。
もしくはテロリスト(笑)

なんか右翼的な言説って、自分に反対するものをみんな左翼にすると思ったら、
そういうことなのかと謎が解けました。

ちなみに僕は体制に順応しているので右翼です(笑)

 

 

 

calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< June 2019 >>

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM