『大人のためのメディア論講義』 (ちくま新書) 石田 英敬 著

  • 2016.01.28 Thursday
  • 19:40

『大人のためのメディア論講義』 (ちくま新書)

 石田 英敬 著

 

   ⭐

   著者本人のためのメディア論講義

 

 

著者の石田は東大の大学院総合文化研究科の教授です。
帯には「テクノロジーと情報産業から人間の意識を取り戻せ!」とありますが、
内容はほとんどそのような本ではありません。
「理系専制からマイナーな記号学の学問的価値を取り戻せ」が本音でした。

この本によると、
「記号論」は「世界でたった三人ほどの理論家がそれを進めて」きたらしく、
その三人は、フリードリヒ・キットラーとベルナール・スティグレールと石田なのだそうです。
キットラーとスティグレールの著書と比肩しうる石田の著書がまったく思いつかないので、
彼の自己評価を素直に受け入れる気になれないですが、
そんなマイナーな「記号論」をメディアのコンピュータ化(デジタル転回)によって
見直すべきだというのが本書の主張です。

動機は何であれ、理論に妥当性があれば尊重すべき意見だと思います。
しかし、石田の展開する理論にはたいして中身が感じられないのです。
本当にヒドい本なので、僕の批判に疑問を感じる方はぜひ本書を通読してください。

まず冒頭で、フロイトが人間の心を表現した「不思議のメモ帳」と
iPadのようなメディア端末が対応すると述べます。
表層上で消えた記憶が深層の無意識領域に残るという心の構造が、
端末上で消えた情報がデータベースに残ることと同様に扱われるのですが、
かなり粗雑な理論だと思いました。

無意識領域の記憶は混乱し混濁し多方向的ですが、
データベースの情報はデジタルに分化し同一性を維持し続けるので、
東大得意のフランス思想的論法で言えば天と地の差があるはずです。

また、石田はコンピュータが記号論から生まれたと主張します。 
コンピュータを「哲学的に」発明したのはライプニッツだとも言います。
このような強弁を不思議に思いつつ読み進めると、
石田の目論みが、廃れてしまった自らの学問領域(記号論)を、
デジタル社会に関連づけて復権しようというものだとわかってきます。

デジタル化した社会の問題を考えるには、
デジタル発想の基盤にある記号論を見直す必要がある、
石田の言う「メディア論のデジタル転回」には、
自分の影響力を高めたいという欲望ばかりが目につきます。

特に不満に感じたのは、
社会のデジタル化を背景に記号論の重要性を訴えるという、
デジタル社会に依存した理論を展開しながら、
デジタル社会から人間性を取り戻すために、
実践的リテラシーよりもデジタル社会の基盤にある記号論の共有が大事だと言うあたりです。

デジタル社会によって価値を与えられる記号論が、
どうしてデジタル社会を見直すことに役立つのでしょうか?
自らの価値を裏付けるものを、誰が批判できるのでしょうか?
それは東大が国に逆らうようなことではないでしょうか?
だとしたら、それが可能かどうかはすでに証明されたも同然だと思います。

自己弁護のためとはいえ、
ここまで都合のいい非論理的な言説を展開することには怒りすら覚えます。

僕は石田が依拠する〈フランス現代思想〉ベースのメディア論は、
大きく間違っていると思っています。
本書でも石田は「原‐メディア」とか言っていますが、
多少でも思想の心得があれば、
これがデリダの「原‐エクリチュール」から来ていることがすぐにピンときます。

ソシュールやデリダの影響ばかり受けすぎると、
メディアの伝達的側面を見失うことになります。
メディアとはそもそも「媒介」であり、送り手と受け手を繋ぐものです。
しかしデリダはエクリチュールを根源としたいがために、
送り手の意図をできる限り排除しようとします。

そのため、石田は「メディアの再帰性」などと言って、
メディアを自立的存在として把握することになります。
しかし、人々はネットを何に使っているのでしょう?
SNSやLINE、ツイッターなどが多いのではないでしょうか。
これら双方向の通信手段が伝達に重点を置いているのは明らかです。

〈フランス現代思想〉の権威に依存するだけの東大的発想は、
片手落ちのメディア論を永遠に続けるだけに思えます。
「原‐メディア」とかつまらないことを言っていないで、
伝達道具が同時に自立的にも機能するという、
その二面性からメディアの秘密に迫るべきだと思います。

あまり厳しいことは言いたくはないのですが、
理論的な正しさより外国思想の権威に従うだけの東大的発想では、
学問の社会的な無用性が高まり、
文系学問の危機は今よりも深まることになるのではないでしょうか。

 

 

 

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