『右傾化する日本政治』 (岩波新書) 中野 晃一 著

  • 2015.08.30 Sunday
  • 17:56

『右傾化する日本政治』 (岩波新書)

  中野 晃一 著 

 

   ⭐⭐⭐

   同時に「リベラル左派」の敗北も考慮に入れる必要がある

 

 

日本政治が右傾化しているか否かという点でも、
反論したがる輩はいそうなので、
「新右派連合」という切り口で右傾化の現状を説明しきった本書は、
労作というほかありません。

特に序章に書かれた「新右派連合」の分析チャートは見事です。
新自由主義と国家主義を二本の柱として、
それがどのように結びついているのかわかりやすく示しています。

中曽根康弘から安倍晋三に至る右傾化の流れについても、
多くの研究を踏まえた研究者らしい手続きで解説されていて、
引用文のチョイスのうまさには感心しました。
中野の研究者としての能力の高さを感じます。

中野が一番力を入れているのは安倍政権への批判です。
「新右派連合」の集大成が安倍政権だということなのでしょう。

しかし、その結論への強い確信からなのか、
全体が結論から逆算して書かれた印象だったのが惜しまれます。
そのため、細川政権の誕生については軽く触れる程度で、
右傾化への道が一本道に見えすぎているように感じました。

安倍政権が「権力の暴走」状態を生み出しているのは事実ですし、
その政権運営は強く批判されるべきだと僕も思いますが、
「新右派連合」の寡頭支配を国民が黙認していることは、
認めざるをえない事実なのではないでしょうか。

中野は自民党の得票率は伸びていない、とか、
右寄りの新政党ばかりが誕生し、政治システム自体が右傾化していたとか、
右傾化は国民の選択ではないと言いたげですが、
やはり右傾化の現状は国民の選択と認めるべきだと思います。

「リベラル左派」は「新右派」より国民にとって魅力がなかったのです。
その認識から逃げているようでは、
中野の言う「リベラル左派連合」の再生は難しいと思います。

ちなみに本書が提案する「リベラル左派」再生の条件は、

1 小選挙区制の廃止
2 リベラル勢力の新自由主義との訣別
3 同一性にもとづく団結ではなく他者性を前提とした連帯

となっています。
1はともかく、2と3は左派得意の「リアリティに欠ける正論」に思えます。

僕は過去レビューで、ポストモダンの価値観が昨今のナショナリズムの源泉だと書いています。
ポストモダンは一元的な価値に対して差異や多様性を称揚しますが、
その多くは消費資本主義的な市場の上での差異に吸収されるものでしかなく、
市場への信仰という点で新自由主義と親しい関係にあります。
バブル以後、リベラル陣営の人たちは消費資本主義を批判するどころか、
やれポストモダンだといって耽溺していましたし、今もしています。
その反省もされていないのに、市場主義と訣別などできるのでしょうか。

「他者性」というのもポストモダン的な価値観で、
アントニオ・ネグリなどのアイデンティティ政治批判の焼き直しに見えます。
現在の保守主義はポストモダンを通過した結果なので、
いまさらポストモダンの価値観を振り回しても効果は期待できません。
LGBTなどのマイノリティの支持で選挙に勝てるとも思えません。

このように、「リベラル左派」は自分たちがなぜ敗北したのかわかっていないのです。
僕は「リベラル左派」には再生してもらいたいと思っていますが、
このようなやり方ではジリ貧です。
左派の再生には、まず自らの失敗を認めることが必要です。
政治とは「正論」を言っていれば支持されるというものではありません。
「我一人潔し」という態度が、大衆から嫌われる原因であることをいいかげん自覚してください。

それから、残念な点をもうひとつ。
個別的な事例について中野の分析は鮮やかなのですが、
右傾化が世界的な傾向だと述べるのであれば、
冷戦終結による国際情勢の変化をベースに、
日本政治の右傾化を考えてもよかったのではないかと思います。

冷戦終結までは、日本は「世界で最も成功した社会主義国」と言われることもありました。
社会主義的な「計画経済」ともいえる
国家主導の横並びの非競争経済でうまくいっていたのです。
(だからこそ終身雇用が制度化できたのではないでしょうか)

しかし、冷戦終結で市場競争主義が進むと、
これまでのように横並びの経済成長は不可能です。
中曽根や小泉による国鉄や郵政の民営化はそのような社会主義的なものへの決別の代表です。
つまり、新自由主義は冷戦後のグローバルな潮流ということになるわけですが、
それまで国家主導の横並び経済だった日本に、
急に市場競争原理など根付くわけがないのです。

そこで今度は国家主導の市場競争経済へと転換する結果になったのです。
これまでと全く違うことを無理矢理やらせるわけですから、
政権に権力を集中する国家主義が強まるのは必然です。
見方によっては、国家という権威に依存しないとやっていけない、という
戦前戦後の日本人のあり方が、今にまで影響しているとも考えられます。

これは僕個人の考えですが、
右派だろうが左派だろうが、
権威に判断を任せて自分の頭で考えない人が少なくない気がします。
国際的な調査でも、日本人のマスコミ報道への信頼は先進国にしては高すぎる結果が出ています。
権威主義が薄まらない限り、この国には何度でも国家主義が隆盛することになるでしょう。

「リベラル」を自認する人々も、多くは西洋を権威と疑わない権威主義者でしかなく、
実態は「リベラル」陣営に属している非リベラリストだったりします。
右左で争うのではなく、権威主義という問題の根幹を批判する方が有意義なのではないでしょうか。

 

 

 

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