『反知性主義とファシズム』 (金曜日) 佐藤 優/斎藤 環 著

  • 2015.05.29 Friday
  • 07:34

『反知性主義とファシズム』 (金曜日)

  佐藤 優/斎藤 環 著

 

   ⭐⭐

   対談文化って知性的なのだろうか

 

 

最近「反知性主義」と題名をつけられた本は怪しいものだらけですが、
本書も内容のクオリティ以前に、出版姿勢に疑問が感じられます。

まず、題名が政治的なわりに、内容はAKBと村上春樹と宮崎駿です。
ファシズムについてはけっこう語られていますが、
「反知性主義」という言葉は10数回くらい出てきた程度です。
最後まで「反知性主義」が何かという定義もありません。
なぜ題名が「反知性主義とファシズム」なのか理解に苦しみます。

気になったのは、この2人が「週刊金曜日」で行った対談が、
いつのものか明記されていないことです。
とりあげたメインの作品が
濱野智史『前田敦子はキリストを超えた』
村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の旅』
宮崎駿「風立ちぬ」
ですから、ベースの対談部分は2013年に行われたのでしょう。

手直しはしているのでしょうが、
「反知性主義」という流行語で本を売るには、内容が古すぎます。
佐藤優が当時に早くも「反知性主義」という言葉を使っていたため、
言葉が流行している今になって書籍化を考えたのかもしれません。
こういうことは隠されるとかえって不信感を抱きます。

「ファシズム」の定義は「反知性主義」と同じく曖昧ですが、
佐藤は生命主義を中心としたイデオロギーとして理解しています。
斎藤の方はよくわからないのですが、
ロリコン性やヤンキー的なものにファシズムの解毒作用があると考えているようです。

結果、2人は日本がファシズムに満たない国だとするのですが、
それはファシズムをどう考えるかによると思います。

当然のことながら、ファシズムにはいろいろな形態がありえます。
ナチスをもとにするのか、スターリニズムを考えるのか、
北朝鮮なのか、はたまた日本の戦時国体なのかで、
だいぶファシズムに対する捉え方が違ってきます。

しかし、2人はそれをあまり明確にせず、
ファシズムという言葉だけで「なんとなく」話を通じさせてしまいます。
「反知性主義」という言葉もそうですが、
認識を明確にしないで話を通じさせてしまうのは、
対談という文化にも問題があるように感じます。

海外ではどの程度メジャーなのかわかりませんが、
日本のインテリはやたらに対談をします。
しかし、この対談という文化はそもそも知的な形態なのでしょうか?

論文を理解するのが難しいにしても、
その人の主張をわかりやすく知るには、インタビューがむいています。
それに対し、対談はある共通の場で話を進めていくことが約束されている、
いってみれば予定調和が望まれている場です。

そのため、立場の近い人同士で対談をするのが普通です。
どうしたって内輪の話になりがちですし、
話が通じてしまえば、厳密な定義など気にしなくなります。
場合によっては、個々の主張は不明瞭になることも少なくありません。

本書では「風立ちぬ」に関して佐藤と斎藤は意見が食い違っていますが、
激論という感じにはやっぱりなりません。
斎藤が譲って佐藤の話を聞くかたちになっています。

対談は個の主張より場の調和を優先する性質があるのです。

個よりも集団の調和を優先する「同質性」が優越した場を生み出し、
読者の所属意識や党派性を強める作用が対談にはあります。
このような同質の場が世間さらに国家にまで拡大されれば
部分と全体が一致する「世間型ファシズム」が形成されることだって、
ありえないとは言い切れないと思います。

もちろん、僕は対談という世論形成メカニズムを否定しているわけではありません。
ただ、自らもさほど知性的でないシステムを利用していながら、
「反知性主義」などと他人をよく攻撃できるな、とあきれます。

本当はただ「頭が悪い」と言いたいだけなのに、
「反知性主義」という迂遠で空虚な言葉を用いて、
自分はさも知的な顔をしながら相手を罵倒するやり方は、
僕には品性を失ったエリートの反動的行為に思えます。

だいたいサブカルでファシズムを語るのだって、
反知性主義的なポピュリズムだと言えなくもないですよ。

内容の薄い本を流行語だけで売ろうという、
「バスに乗り遅れるな」の精神が何を導いたのか、
そういう反省もない方々に「反知性主義」とか言われても、
悪い冗談としか思えません。

やはり戦争の最大の要因は経済だと思います。
金儲けのために手段を選ばないことが、
イデオロギー以上に危険だと知識人なら気づくべきです。
かつての左翼が金儲けに走る姿には本当に幻滅します。

ちなみに斎藤のロリコン性がファシズムの解毒作用になるという考えは、
まったく僕には正しいとは思えません。
そんな珍説を開示するなら、そのメカニズムをしっかり説明してください。

 

 

 

評価:
佐藤 優,斎藤 環
金曜日
¥ 1,512
(2015-05-21)

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