『【中東大混迷を解く】 シーア派とスンニ派』 (新潮選書) 池内 恵 著

  • 2018.07.06 Friday
  • 12:49

『【中東大混迷を解く】 シーア派とスンニ派』

  (新潮選書)  池内 恵 著

 

   ⭐⭐⭐⭐

   シーア派については詳しいが、スンニ派については物足りない

 

 

『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』に続く池内恵の【中東大混迷を解く】シリーズの第2弾は、

イスラム教の2大宗派のスンニ派とシーア派の対立を扱います。

イランはシーア派が主導的な国で、サウジアラビアはスンニ派主導で仲が悪いとか、

ISIS(イスラム国)はスンニ派に属するなどの情報は僕も知っているのですが、

実態としてどこまで宗派対立が中東情勢に影響を与えているのか、ということまではよくわかりません。

中東情勢に詳しい池内による本書が宗派対立の実際を学ぶのにうってつけだと思って読んでみました。

 

冒頭で池内は中東問題を宗派対立に還元する視点を否定します。

すべて宗派対立が問題だとするのは現実的な理解を妨げるとしながらも、

政治が宗派を利用することが実際に行われていて、「宗派主義による政治は、動かし難く存在している」と述べています。

宗派対立といっても教義においての対立ではない、としながら、宗派は政治的に構成されたとも言い切れない、とも言います。

結局、池内自身は宗派対立の現実について、まともな回答を避け続けているように感じました。

なかなか難しい問題なのは想像できるのですが、他人の見解を否定しておいて自身の見解が不明瞭なのには不満が残りました。

 

第2章はシーア派とは何かを歴史的に振り返ります。

シーア派が第4代カリフのアリーの血筋を正統だと考えていることは、

受験世界史の知識でも知ることができるのですが、

さすがに池内の説明はさらに詳しくわかりやすいもので勉強になりました。

 

シーア派とスンニ派はムハンマド死後の後継者問題に端を発します。

後継者である初代カリフはムハンマドの妻アーイシャの父アブー・バクルですが、

アブー・バクルからウマル、ウスマーン、アリーへと至る「正統カリフ」の権力継承を認める「主流派」がスンニ派で、

ムハンマドの娘婿のアリーが正統な後継者であるべきだった(イマーム)と考える「反主流派」がシーア派です。

個人的に興味深かったのは、シーア派が「あるべきだった権力継承」という理想に立脚して、この現実を超克する立場にあることです。

スンニ派という主流派によって「虐げられた民」であるシーア派というあり方が、

反体制勢力の原動力となり、権力を掌握して王朝を築き上げるまでに至りました。

その代表がアラブ人によって従属民の位置に置かれたペルシア人を中心とするイランだと池内は言います。

 

第3章は1979年のイラン革命について詳しく語られます。

西洋化を進めたパフラヴィー朝がウラマーというイスラム学者による統治体制に打倒されたのがイラン革命です。

池内はイラン革命の衝撃を物語る4つの要素を挙げています。

 

(1)近代化・西洋化に対する否定

(2)イスラーム統治体制の樹立

(3)スンニ派優位の中東でシーア派が権力を掌握

(4)反米路線へ転換

 

このように整理してもらえると、

現在のイランのアメリカやサウジアラビアとの葛藤がどこに根ざすのかがわかりやすくなります。

 

第4章はイラク戦争後の宗派対立について、第5章はレバノンの宗派主義体制について述べていきます。

「レバノン政治は、この本のテーマとなる宗派対立の元祖・家元とも言えるような存在である」と池内が語るように、

本書の目的のひとつにはレバノン情勢を語ることがあるように思います。

 

レバノンが宗派主義体制と言われるのは、国内の宗派の人口比率に応じて政治権限を分けているからです。

レバノンはイスラエルの北に位置し、シリアとも隣接する位置にある国ですが、

これまでキリスト教のマロン派が国内の多数派を占めていたようです。

キリスト教諸宗派の人口が多数派であれば、議会の議席もそれに応じて多数が配分され、

大統領はマロン派、首相はスンニ派、議長はシーア派というように決まっていく、と池内は述べます。

これは各宗派に権限が分散するための工夫ではあるのですが、

出生や移民による人口の変化によりシーア派が実質上の最大派になると、各派が外国勢力を巻き込んで内戦へと発展しました。

その後、1989年にマロン派の権限を弱める「ターイフ合意」で和解がはかられました。

これに反発したのがマロン派の「自由愛国運動」を率いるミシェル・アウン将軍です。

しかし、アウン将軍の部隊がシリア軍に鎮圧されたことで内戦は集結しました。

そのままシリア軍のレバノン進駐も黙認されることになりました。

 

2005年にスンニ派の首相ラフィーク・ハリーリーが爆殺され、シリアの関与が疑われると、

シリア軍撤退を求める大規模なデモが続き、親シリアの内閣が総辞職する

「レバノン杉革命」が起こり、

民主化への期待が高まりましたが、結果はさらなる混乱へと突入しました。

このあたりの経緯は複雑なのでぜひ本書を読んでほしいのですが、

たしかに宗派対立という単純な視点では理解しきれない複雑な出来事に感じました。

 

レバノンにはシーア派のヒズブッラー(ヒズボラ)という反イスラエル勢力が存在します。

ここにはパレスチナとイスラエルの問題も関係しますし、

同じシーア派のイランがヒズブッラーを支援していることもあり、

イスラエルに肩入れしているトランプがイラン核合意から離脱することも、

このあたりの知識がないと理解が難しいと思います。

 

本書ではシーア派についての説明に力点があり、

サウジアラビアなどのスンニ派の実情についてはあまり書かれてはいないようでした。

【中東大混迷を解く】シリーズがこれからどうなるのかわかりませんが、

アメリカやイスラエルがアラブに及ぼしている影響を、池内が客観的に論じた本も読んでみたいと思いました。

 

 

 

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