『危機の政治学 カール・シュミット入門』 (講談社メチエ) 牧野 雅彦 著

  • 2018.07.01 Sunday
  • 13:36

『危機の政治学 カール・シュミット入門』(講談社メチエ)

  牧野 雅彦 著

 

   ⭐⭐

   やはりシュミットはよくわからない

 

 

ナチスへの協力が取りざたされて批判にさらされたドイツの法学者カール・シュミットを、

再評価する動きが最近目立っていますが、牧野もそのような流れの中で本書を書いています。

シュミットの思想はナチスに協力した危険思想だ、と切り捨ててしまえるものでないことは本書を読んでよくわかりましたが、

では、なぜシュミットがナチスと近い立場に身を置いたり、反ユダヤ主義とも思える言説をしていたのか、という点については、

牧野の記述は非常に後ろ向きでしかなく、これもまたフェアな立場だとは思えませんでした。

批判して終わりも良くありませんが、シュミットをただ擁護するだけの態度も、門外漢としては同様に偏ったものに感じました。

 

副題に「カール・シュミット入門」とあることに読み終わってから気づきましたが、

明らかに入門書のレベルではありませんし、入門書の体裁でもありません。

僕は途中でわからなくなって、もう一回最初から読み直したのですが、かなり難しくて苦労しました。

シュミットの著作自体について以上に彼の周辺人物の著作や当時の政治状況についての方が、

触れている量が多かったようにさえ感じました。

 

第一章は「政治神学とは何か」と題されていますが、シュミットの概念をわかりやすく説明してくれるのかと思いきや、

シュミットが影響を受けたカトリック系の反動思想家ジョゼフ・ド・メーストルやドノソ・コルテスの思想を長々と説明します。

いきなりシュミットではなく謎の反動思想家の説明が続くのは、マニアックとしか言えません。

そこを乗り越えてシュミットの思想に至ったと思っても、ほとんど記述らしい記述がなく、

気づいたらメーストルとコルテスの思想にだけ詳しくなっていました。

 

第二章ではシュミットの『政治的なものの概念』を取り上げ、シュミットが多元主義のハロルド・ラスキを批判したことが述べられます。

直後、牧野はハロルド・ラスキの著作の内容に踏み込んでカトリック反動について長々と説明したあと、

次にジョン・フィッギスという歴史家の、教会を中心とした団体自治論を説明し始めます。

ここまで30ページを要していますが、その間にシュミットはほとんど登場しません。

これで本当にシュミットの入門書と言えるのでしょうか?

 

そのあとやっと『政治的なものの概念』における「友と敵」の実存的決定の話が出てくるのですが、

これが数行のあっさりとした記述で終わってしまうのです。

続いて『憲法理論』を取り上げ教会の「権威」と国家の「権力」をシュミットがどう考えていたかが語られます。

ですが、この部分は9ページで終わってしまいます。

 

シュミットの著書『独裁』における「委任独裁」と「主権独裁」の区別については、説明にそれほど不満はありません。

秩序を制定する権力である国民を「憲法制定権力」としたとき、憲法制定を委任された代理人が「主権独裁」である、というのは、

安倍晋三の憲法改正に対する黒い情熱を想像する上で興味深いものがありました。

シュミットの国際連盟批判や、統一帝国であるライヒへの執着、内戦を終結させる「アムネスティ」という相互忘却の原則についてや、

パルチザンにおける敵の問題など、がんばって読めばおもしろい部分もあるのですが、

長々しい上に専門的で敷居の高い内容だったというのが正直な印象です。

 

しかし、肝心の友と敵の区別についての説明に分量をかけていないため、

基礎的な部分をぼんやりとしか理解していないまま、先々の理論に付き合わされている感じは否めません。

牧野は「友と敵」の区別が「政治的なもの」の核心だと結論だけは何度も述べるのですが、

それがどういうプロセスで成立しているのかは、なぜか詳しく説明してくれません。

もしかしたら、シュミットとナチスとの関係にとって不利な内容なので、あまり触れないようにしているのでしょうか。

危機状態を前提にした権力論は、議論が本質的になるため魅力があるのは理解できますが、

一方で例外状態はあくまで例外状態であるという認識も大切でしょう。

「敵」を設定し共有することで自己のあり方を決めるというのであれば、

それは反動保守のやり方とそう変わらないように思えるのですが、

本書には僕の疑問を解消するような説明は見つけられませんでした。

 

 

 

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