『日本の国難 2020年からの賃金・雇用・企業』 (講談社現代新書) 中原 圭介 著

  • 2018.05.30 Wednesday
  • 09:30

『日本の国難 2020年からの賃金・雇用・企業』 (講談社現代新書)

  中原 圭介 著

   ⭐⭐⭐⭐⭐

   東京一極集中が少子化の元凶

 

 

本書で中原は日本の経済の先行きを懸念しているのですが、東京一極集中の問題を別にして、

内容を拡大すれば「世界経済の危機」と考えてもいいような内容です。

日本経済の問題にとどまらないだけに、その深刻さは読んでいて憂鬱になってしまうくらいです。

 

経済政策は「普通の暮らしをしている人々のために存在している」と考える中原は、

現在の経済政策や金融政策が富裕層や大企業にだけ恩恵があり、

大多数の普通の人のことを考えていないことを問題視しています。

これは経済的弱者の立場に立つ左派的な意見というわけではありません。

消費活動によって実体経済を下支えしているのは、大多数の普通の人々だという現実があるからです。

一部の人だけを裕福にしているだけでは、総体としての経済は低迷するしかありません。

 

最近の株価などから判断すると、先進諸国は好景気だと言えるでしょう。

しかし、中原は現在の景気が異常な量の国の借金(公的債務)で成り立っているため、

非常にリスキーな状況にあると述べます。

 

今の世界の経済状況は、経済に過熱感はまったくないものの、後に「借金バブル」だったといわれるかもしれません。なぜなら、リーマン・ショック後の世界経済は借金バブルによって支えられてきたからです。今の長期にわたる世界経済の緩やかな景気拡大期は、借金バブルの賜物であったといえるのです。

 

アメリカでは低金利を背景に借金による消費が進み、中国では企業などの民間債務のペースが増したことで、

世界の公的債務は異常なペースで膨らんでいます。

僕は欧州の債務超過を問題視する別の本も読んだことがありますので、

今のような経済状況がいつまでも続かないことはよくわかります。

 

それ以上に興味深かったのは、

中原がAI利用の拡大が、人件費の削減以外の恩恵を大してもたらさないと考えていることです。

AIによって多くの雇用が奪われる、という指摘は特に珍しくもないのかもしれませんが、

中原の記述には悲観的なトーンも反発心も感じられることはなく、ひたすら分析的なので、

淡々と末期ガンの説明を受けているような気分になります。

イノベーションによって新たな雇用が生まれる、という発想は通用しないと中原は述べます。

 

いま実現を目指しているイノベーションは、これまでとはまったく様相が異なります。21世紀以降のIT、AI、ロボットによるイノベーション(第4次産業革命)は、コストを抑えるための自動化を最大限にまで推し進め、これまでの産業集積や雇用を破壊していくという特性を持っています。

 

この結果、AIやロボットによる効率化は、世界的に失業者を増加させると中原は指摘します。

「資本」の原理による効率化を極端に推し進めることが、本当に「社会」にとって効率的なのか、

「資本」と対決できる民主的な「社会」の論理が必要になると僕は感じました。

 

中原が日本経済の最大の問題点とするのは少子化です。

これから少子化が進むために社会保険料の負担がますます増加していき、

賃金や給与から税金や社会保険料を差し引いた手取り分である「可処分所得」は、

2020年あたりでは実質10パーセント以上の減少もありえるというのです。

 

最後の章で中原は東京圏への一極集中が少子化の元凶だと指摘します。

地方の人口が東京に流出しているだけでなく、最近では名古屋や大阪など他の大都市圏の人口を東京が吸い上げるまでになっています。

東京は生活コストも高く、長時間労働が常態化しているため、晩婚化による少子化が地方より進んでいます。

東京一極集中が進むと、それだけ少子化のペースが早まるのです。

 

前々からわかっていた問題なのに、政府は有効な対策を講じることができていないわけですが、

中原はコマツという企業が本社機能を東京から石川県へと地方移転したことを紹介して、

このような取り組みが対策のひとつとして期待できることを訴えています。

ただ、コマツのようなケースが多くの企業に当てはまるかどうかは、不透明だと思いました。

 

東京一極集中はずいぶん前から問題として存在していましたが、

ほとんど実質的な意味がない憲法改正と比べても、明らかに一般レベルでの議論の対象となっていません。

石原慎太郎東京都知事の時に、首都機能移転が持ち上がったこともありましたが、

候補地の話が出たあたりで「やっぱり」立ち消えになってしまいました。

省庁の地方移転も進める話もありますが、まだ消費者庁くらいしか実際には動いていないはずです。

民主党政権が倒れて以後は、地方分権の構想も表に出なくなりましたし、

現政権は束の間の「今」の繁栄だけを追い求める無責任な政治を行なっていて、それを多くの国民も支持しています。

 

本書では東京一極集中の問題にそれほどページが割かれていませんが、

僕は日本人の天皇制を精神的基礎とした中央との同一化という「歴史的精神」が影響していると思っています。

都の真似をする「みやび」が日本人のオシャレ精神として歴史的に受け継がれてきただけに、

日本人自身の手では永遠に解決は不可能だと僕は予想しています。

国家財政が破綻してIMFでも入ってこないことには、日本は変わらないのではないでしょうか。

 

 

 

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