『若い読者のための経済学史』 (すばる舎) ナイアル・キシテイニー 著

  • 2018.05.07 Monday
  • 08:07

『若い読者のための経済学史』  (すばる舎)

  ナイアル・キシテイニー 著/月沢 李歌子 訳

 

   ⭐⭐⭐⭐

   若くなくても十分面白い

 

 

イエール大学出版局のLittle Historiesシリーズの経済学にあたるのですが、

著者のナイアル・キシテイニーは学者ではなくて経済ジャーナリストなんですね。

イギリスの有名大の学者は手っ取り早い見取り図など示さないし、

イギリスのジャーナリストは広範な知識を持っていて、大学から認められるような体系的な本を書けるのだと思いました。

 

本書はトピックごとに40の短章で構成され、1章の中で経済学に関わる人物が何人か取り上げられています。

大きく見て時系列に進んでいくため、

原題はECONOMICS(経済学)でしかありませんが、「経済学史」と名付けても違和感がない内容です。

一冊で手っ取り早く経済学の流れを追いかけたり確認したりするには、

読者の年齢にかかわらず有用な本だと思います。

 

たとえば2章ではプラトンやアリストテレスが取り上げられます。

そこではアリストテレスが貨幣を交換のためではなく、

貨幣自体を増やすため、つまり利子を取って利益を得ることを批判していたことが述べられています。

 

6章ではアダム・スミスが登場します。

ここではスミスの主著『国富論』の内容をサッカーの喩えで説明しています。

サッカーでは個人の利益を追求すると全体の利益を害するので、全体の利益に貢献する選手が求められます。

しかしスミスの発想は全く逆で、人々が自分の利益を追求することで多くの人の利益になるとするのです。

サッカーには全体を統括する監督がいるが、経済にはそういう存在が見当たらないことを、

スミスが「見えざる手」と呼んだのだという説明はなかなか秀逸です。

 

10章ではK・マルクスの思想をコンパクトにまとめています。

商品を生み出す資本とは「権力」であり、財産を持つ者と持たない者との分断に依存しているなど、

教科書的な一通りの記述ではない、より身近に感じられる説明の仕方をうまく選んでいると思います。

 

16章では社会主義の中央計画経済の欠陥を、L・ミーゼスの論によってわかりやすく説明します。

資本主義では市場の価格変動によって自然と需要のある商品の生産が増えていくのですが、

社会主義ではこれをすべて政府が決めるため、非合理的だとミーゼスは考えました。

 

18章ではJ・ケインズのセイの法則批判を、浴槽とホースの喩えで説明しています。

僕は過去にセイの法則の説明をいくつか読みましたが、こういうアプローチは初めてでした。

19章ではJ・シュンペーターのイノベーションによる「創造的破壊」を取り上げて、

シュンペーターがどのように資本主義が終焉すると考えたのかが書かれています。

 

21章ではミーゼスの弟子F・ハイエクが登場します。

ハイエクは戦後の経済が資本主義と社会主義の「混合経済」と考え、

政府の経済統制が個人の自由を奪うとして『隷属への道』を書きました。

ハイエクからしたらアベノミクスなど問題外もいいところですが、

今の経済学者の多くはハイエクの考えには懐疑的であるようです。

 

アベノミクスのことを考えるなら、29章のM・フリードマンの「マネタリズム」が役立ちます。

フリードマンがノーベル経済学賞を授与されるとき、抗議者が現れて会場から閉め出されたという話は初めて知りました。

貨幣供給を増やすことでインフレ率を上げるというやり方が、短期的な効果として考えられていたこと、

M・サッチャーとR・レーガンが実行してうまくいかなかったことなどがよくわかります。

 

このような有名人以外にも、いろいろな経済学者の理論が紹介されています。

23章に登場するシカゴ大学のゲーリー・ベッカーは、経済原則を社会や人間の行動を分析するのに用いました。

たとえば、多くの時間を要する行為を「時間集約型」と呼んで、その間に働いて得られる費用によって表す方法などです。

ベッカーによって経済学は汎用性を増したのですが、一方で経済学の範囲が広がりすぎたとも言われます。

「人的資本」という考えを提唱したのはベッカーです。

 

「情報経済学」という新分野を切り開いたジョージ・アカロフが、

売り手と買い手の間に情報の不均衡があることを指摘したことを説明する33章も興味深く読みました。

読む人によって興味深い章はそれぞれ異なるかもしれませんが、

全部で40章もあるのでおもしろく感じるところに当たる確率は低くない気がします。

僕は順番に読みましたが、読みたいところを拾いながら読んでも問題ないと思います。

 

ただ、一つだけ不満を言えば、「若い読者のため」とするならば、

ソフトカバーで手軽に持ち歩ける大きさにして、価格を抑えてほしかったです。

何年後かにどこかで文庫版として出るならば、その時にはもっとオススメできる気がします。

 

 

 

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