『炎と怒り──トランプ政権の内幕』(早川書房) マイケル・ウォルフ 著

  • 2018.03.14 Wednesday
  • 09:47

『炎と怒り──トランプ政権の内幕』(早川書房)

 マイケル・ウォルフ 著/関根 光宏・藤田 美菜子 訳

 

   ⭐⭐

   自らを暴露しまくるトランプに暴露本は無用

 

 

本書はドナルド・トランプ政権の中心人物たちの困った人間模様を描き出した、いわゆる暴露本です。

著者のウォルフはメディア王のルパート・マードックの評伝などで知られるジャーナリストだそうです。

(そういえばマードックは本書でも何度か登場しています)

リベラル派や著名人に嫌われているトランプ大統領を批判した本なので、

規範的な視点からトランプ政権のお粗末さを嘆くようなスタンスなのかと思いましたが、

読んでみると、ウォルフがそのお瑣末さを面白がって書いているような印象を受けました。

トランプ政権の内幕を書けば金になる、というトランプに負けず劣らずの野心を感じます。

 

ウォルフは最初の章でトランプ陣営が大統領選に勝つとは当日まで思っていなかったと書いています。

 

トランプと側近がもくろんでいたのは、自分たち自身は何一つ変わることなく、ただトランプが大統領になりかけたという事実からできるだけ利益を得ることだった。生き方を改める必要もなければ、考え方を変える必要もない。自分たちはありのままでいい。なぜなら自分たちが勝つわけがないのだから。

 

トランプにとっては「敗北こそが勝利だった」と言い切るウォルフは、

勝利の瞬間、トランプが幽霊を見たような顔をし、メラニア夫人が喜びとは別の涙を流した、と述べています。

 

ここで描かれた情景が僕にはあまり腑に落ちませんでした。

たしかに事前のメディアの予想ではトランプは敗色濃厚という見込みであったと思うのですが、

直前までトランプは劣勢を跳ね返す粘り腰を見せていたはずで、

本当にトランプ本人が負けを望んでいたら簡単にそうなったように思うのです。

このあたり、必ずしも事実ではなく、反トランプの人々の実感にうまく合わせるような書き方をしている気がしました。

 

本書で描かれるトランプ像にはあまり驚くことはありません。

「トランプには良心のやましさという感覚がない」

「トランプはごくごく基本的なレベルの事実すら無視する」

「トランプには計画を立案する力もなければ、組織をまとめる力もない。集中力もなければ、頭を切り替えることもできない」

ウォルフは相当にボロクソ言っていますが、読者は特に違和感なく納得できるのではないでしょうか。

むしろ誰が見ても秀でた能力を感じない人物が、なぜ大統領になっているのかが謎なのですが、

トランプの実像を描いてもその答は得ることができないのです。

それより面白かったのは、トランプとメラニア夫人の夫婦生活についてや、

娘のイヴァンカがテレビ番組で父の髪型を笑いものにした話などでした。

 

この本を最後までキッチリと読み通す人はあまり多くないのではないかと推測します。

途中からスティーヴ・バノンとトランプの娘夫婦の権力争いを描くことに重心が移っていき、

肝心のトランプの影が薄くなっているからです。

バノンはボブ・マーサーという右派の資産家の後押しで「ブライトバード」という保守系メディアを経営し、

トランプの首席戦略官に就任し、大いなる成り上がりを果たした人物です。

ウォルフが「スティーヴ・バノンほどホワイトハウスに似つかわしくない人物はそういない」と書くのは、

バノンが63歳という高齢でありながら政治未経験者だという事実が影響しています。

彼はイヴァンカ・トランプとその夫ジャレッド・クシュナーをまとめて「ジャーヴァンカ」と嘲笑的に呼び、

クシュナーとの間で意見が対立すると、リーク合戦を繰り広げて互いの足を引っ張ります。

 

金を追い求めて挫折し続けるバノンの経歴も興味深かったのですが、

そんなバノンが保守系メディアで成功したのは、

リベラル系に比べて保守系メディアの「参入障壁が低いというメリット」があったという指摘に納得しました。

どこの国であれ、保守系メディアに登場する人物が社会への怨念を抱えていたりするのには、

そのような背景があるのかもしれません。

 

ウォルフが途中からバノンの視点に近接し、バノンの言葉や考えを生々しく述べるにつれ、

本書の主役はトランプではなくバノンなのではないかと感じました。

実際、本書はトランプ政権の誕生からジョン・ケリーが首席補佐官に任命され、バノンが首席戦略官を退任するまでを扱っています。

池上彰の解説にバノンが取材に全面協力したと書いているので、バノンの言に依存した結果だとわかりました。

そうなると、本書の内容にバノン的バイアスが反映していてもおかしくはありません。

 

本書の記述でなるほどと思ったところがあります。

ウォルフはトランプ政権をこう分析しています。

 

トランプ政権の矛盾は、他の何よりもイデオロギーに突き動かされた政権であると同時に、ほとんどイデオロギーのない政権でもあるということだ。(中略) ゲームで優位に立つより重要な目的など、まったくありそうになかった。

 

トランプは時としてリベラルに激しい批難を浴びせますが、民主党的なスタンスを取ることもあります。

トランプは「すべてを個人的にとらえる」人であり、頭には自分の勝利しかないのです。

(だから大統領選に負けるつもりだったとは僕には思えないのです)

 

「アメリカは、こういう人間を大統領に選んたのだ」とは解説の池上彰の言葉ですが、

日本もそれほど人のことは言えないように思います。

聖人君子をトップに抱くより、等身大で自分の分身のような人物こそが自分たちを代表するべきだと国民が考えるようになれば、

国のトップが凡庸な人になるのも驚くことではないように思います。

 

 

 

評価:
マイケル ウォルフ,Michael Wolff
早川書房
¥ 1,944
(2018-02-23)

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