『ひとり空間の都市論』 (ちくま新書) 南後 由和 著

  • 2018.01.25 Thursday
  • 12:57

『ひとり空間の都市論』  (ちくま新書)

  南後 由和 著

 

   ⭐⭐

   目のつけ所はいいが考察不足

 

 

都市には一人で利用する空間がたくさんあります。

ワンルームの住居、カプセルホテル、インターネットカフェ、ひとりカラオケなど敷居のあるものから、

牛丼屋のカウンター、シェアハウス、ファミレスのボックス席など敷居の曖昧なものといろいろです。

著者の南後はこのような空間を「ひとり空間」として都市との関係の中で考えようとしています。

 

南後は「ひとり空間」をこう定義しています。

 

個室であるか否かにかかわらず、何らかの仕切りによって、「ひとり」である状態が確保された空間を、総じて「ひとり空間」と呼ぶことにする。

 

物理的な仕切りがあるものはもちろん、

ケータイなどのモバイル・メディアによって生じた「見えない仕切り」によるものまで、

「ひとり空間」に含めたのが現代的といえるかもしれません。

 

南後が言う「ひとり空間」は「空間的に」他者から切り離されることで「個」を成立させる捉え方なので、

その「ひとり」は内面が欠落した匿名的で均質的な存在であることが前提となります。

「ひとり」は西洋的に言えば「個人」のことになるはずですが、西洋の「個」には自立的な内面が意図されているはずです。

そのため「ひとり空間」は、おそらく西洋では「パーソナルな空間」と考えられ、そこには「私的」という意味が含まれると僕は考えます。

つまり、南後が提出している「ひとり空間」は非西洋的な発想、もっといえば日本的な発想なので、

「ひとり空間」という別の概念をわざわざ作り出すからには、それだけの日本的な理由で説明がなされなくてはいけません。

しかし残念ながら、南後は日本の歴史的な空間概念を明らかにする方向に進まず、

(中途半端に鴨長明の方丈庵を持ち出しはしましたが)

近代的な都市との関係にその理由を求めたため、「ひとり空間」の考察に成功せずに終わったように感じました。

 

南後は社会学専攻なので、「ひとり空間」と都市の関係を考えていく上で社会学を利用します。

G・ジンメルやシカゴ学派の都市社会学、H・ルフェーブルなどの古典をたどったりしますが、

あまり「ひとり空間」の考察には役立っている感じはしません。

南後もそれはある程度承知しているようで、この部分は早々に終了します。

 

南後は「ひとり空間」が日本の都市に多いと述べているので、ある程度日本特有の現象だとは理解しているようです。

その意味では西洋の社会学を持ち出しても、納得できる答に到達しないのは明らかです。

「ひとり空間」が日本的なものなのか普遍的なものなのか、そこを曖昧にしつつ論を進めているのも共感できませんでした。

前述したように、空間性から「個」を考えるという発想自体が西洋には縁遠い発想だと僕は思っています。

 

他のレビューにも書いたのですが、

僕は日本の近代的個人が共同体の同調圧力から自由な「私的空間」の確保によって成立したと思っています。

つまり、日本で個人であるには「ひとり空間」の確保が必要だったのです。

むしろ「ひとり空間」という空間性が前提にあって、個人が成立していると言ってもいいと思います。

これは西洋とは違う社会条件の上で後発的に近代化をした国(日本)における事情なので、

西洋人が「ひとり空間」について答を出せるはずがないのです。

 

しかし南後は歴史的認識に乏しいため、いつまでも考察を深めることができず、具体例を書き連ねて終わっています。

あげくシェアリング・エコノミーなどによるネットを介した「半匿名の個人」が、

そのサービスを利用した履歴が残ることで、「ひとり」の関係が継続的なものになり、

都市の貨幣による一回性を原則とする都市の人間関係より匿名性が低くなると述べるのですが、

この論理はまったく信憑性がないとしか思えませんでした。

ポイントカードなどで購買の記録が残る店で買い物をし、店員と会話をして顔バレしている客よりも、

ネットサービスの継続利用の方が匿名的でなくなるというのはどうなのでしょう?

(どちらの関係でもサービスで知り合った相手と恋愛に発展する可能性は同じくらいではないでしょうか)

僕には最新のメディアテクノロジーに対して安易に希望的観測を述べているだけにしか感じませんでした。

 

そんなつまらない「現代性」よりも、学者がすべきなのは、歴史的認識を踏まえた現代の分析ではないでしょうか。

社会学とか情報学とかいうジャンルの縛りの中で研究をしているせいでこのような結果になるのなら、

大学の「専攻」というのはひどく不自由なものだと感じます。

もう少し研究を深めてから書物にすべき内容だったと思います。

 

 

 

 

calendar

S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< January 2019 >>

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM