『メディア不信――何が問われているのか』 (岩波新書) 林 香里 著

  • 2017.12.02 Saturday
  • 16:08

『メディア不信  何が問われているのか』 (岩波新書)

  林 香里 著

 

   ⭐⭐

   旧メディアへの不信は世界的な現象

 

 

本書の題名は「メディア」となっていますが、実際は新聞やテレビなどの旧メディアに対する不信を扱っています。
林はドイツ、イギリス、アメリカ、日本の各国事情を見ながら、旧メディアの凋落を考察していきます。
結論を言ってしまえば、林は行き過ぎた商業主義とポピュリズムにメディア不信の原因を求めています。

ただ、林が考える「メディア」はほとんど政治報道に限定されていると言えます。
その視野狭窄がこの問題を考えるには、いささか力不足の感があるのも事実です。
たとえば、林は日本のメディア不信の原因にそもそもの政治不信というか政治忌避を挙げます。
市民の権利主張の少ない日本人は「メディアに対して無関心、無関与な態度」だと言います。
この分析は正しいとは思うのですが、だとするとこれは日本人の精神構造の問題であって、
最近のポピュリズム(保守論壇の台頭)については考察を放棄しているのに等しくなります。
(ネット上の右派言説は実際には少数だとしてあまり考察しませんし、
左派の衰退が目に余る、と左派批判をして終わります。
産経新聞の読者は政治関心が高いから「欧米的」だという笑える考察もありました)
僕としては、問題の本質から逃げていると感じずにはいられませんでした。

海外のメディア事情についても、それほど新たな知見を得た気がしません。
戦争の反省によりドイツのメディアはリベラル寄りで、右派を中心に不信が高まっているそうです。

イギリスについては記憶に残るような内容はありませんでした。
そもそも、イギリスは世界調査でもメディアの信頼度が最も低い国だったと思います。
アメリカのトランプ現象についてもすでに多くが語られています。
林はアメリカは徹底的な市場原理によって、自分が満足するニュースを選択するようになっている、とします。
自分の選ぶニュースだけを信頼する態度が、それ以外を「フェイク・ニュース」と弾劾することにつながります。
これには「ファクト・チェック」では対処できない、と林は述べます。

海外のことはわかりませんが、日本のネット上のリベラル系とされるメディアへの不信に関しては、
自己自身のナルシシズムを保つために「事実」そのものを嫌悪していることの現れだと僕は感じています。
彼らは本当はリベラルを嫌っているのではなく、「不都合な事実」が嫌いなのです。
それを、リベラル批判にすり替えてごまかしている部分があるように思います。
(僕はリベラル批判本が論理破綻している事実を指摘したら「リベラル病」とか書かれました)

あと、僕は出版社に対して強い不信を抱いているのですが、
商業主義と言うなら、出版社についても触れてほしい気はしました。
(そうすれば「ありがちな本」にならずにすんだ気がします)

また、新聞やテレビ、出版社(それにアカデミズム)も含めて、旧メディアの質そのものが低下していることも事実だと思います。
林は受け手の問題しか考慮していませんが、メディアそのものの質の低下も絶対に影響しているはずです。
(僕が新聞購読をやめたのはそれが理由です)
「メディア」とくくるならば、もっと視野の広い多角的な考察をしてほしいと思います。

 

 

 

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