『魔法の丘』 (思潮社) 暁方 ミセイ 著

  • 2017.11.22 Wednesday
  • 21:55

『魔法の丘』  (思潮社)

  暁方 ミセイ 著

 

   ⭐⭐

   思考を捨てて感覚を純化すれば詩になるという発想は文学的ではない

 

 

この詩集を読んで誰でも感じることは、とにかく色を語りすぎるということだ。
そのため、感覚といっても圧倒的に視覚がその場所を占めている。
暁方は世界を色にしてしまう遠い光源をメタな存在として提示しつつ、
自らは時間の隠喩である透明な風や雨として、流れ去っていくことを望んでいる。

これは一見、感覚による自然(世界)との一体化をうたっているかのように見える。
しかし、世界を無害な色彩として平板化し、時間へと一体化することは、音楽の世界でしかない。
要するに暁方の詩は文学の音楽に対する敗北である、と言って良い。
その意味では「巨眼」という詩においてエッセンスがすべて語られていることに気づく。

 生物の構成を覗き込むような
 雲の模様は
 わたしの認識できる
 ものの縮尺をずっと小さくしてしまって
 二相にわかたれた世界の間に
 光のたおやかな境界をはる
 すさまじい
 放射の音楽だ

このようなことが起こるのは、暁方が思考を嫌悪しているからである。
日本人に伝統的に見られるメンタリティと言っていいのかもしれないが、
このような傾向は最近では、ネットに精神的に依存して現実からメタ的に逃走する消費資本主義の精神として現れる。
その現れとして、暁方は何度も送電塔に想いを馳せる。

 黄色い電車
 その暗いゴムの匂いがする車中で
 高圧鉄塔の言葉を感じる
 それをありのまま書きとめようか
 (リーヒ、ビリラ、イリ、リイ、イイ、)
 それは自分のためでも誰かのためでもない
 ただの歌だからいい
                   「耳煩光波」

 白い鉄塔
 電気を送る
 空と空との間で鳴るもの、七本の
 送電線
              「ホームタウンの草の匂い」

ここでは電波が光との類似でとらえられている。
こうなるとイメージされるのはネットやスマホというメディアである。
暁方の詩(音楽)は彼女自身の感覚というよりも、電子メディア(死語)によってもたらされたものと受けとめざるをえない。

これは私たちの「日常」である。
日常を描いて詩となる場合もあろうが、それは人生の真実が見つけられるときではなかろうか。
そこには人生との苦闘のあとが感じられなくてはならない。
ただ逃げているだけなら、ドラッグをやればいいのである。

問題は暁方が思考を放棄していることである。
考えるのをやめて自然に任せるのは老荘思想のようではあるが、
そのような中国古典の世界と暁方が無縁なのは言うまでもない。

 頭の中のことなどはすっかり忘れてしまって
 かわりに感情の
 一番純粋に澄み切った音のようなものが
 血液の中から押し寄せ
                   「地点と肉体」

 なにもかもが人の経験とそれに対するけいべつ
 へ返されてしまう今日には
 吐き気のする怒りと悲しみの鮮やかな花も
 諦めなきゃ
                    「用水地」

直接には「経験」にまつわるネガティブな感情を嫌っているように見えるが、
それが思考の停滞を生む結果となるのは必然である。
「蒙味の緑」では「わたしは経験による推測を捨てて」
「見えない感覚領域」で「わけがわからないまま/幸福に思考は閉じる」とあり、
「わけがわからない」状態が思考の「幸福」と結びつけられている。

暁方が「肉体」と書いていても、思考が「不在」の中で語られた「肉体」は単なるメディアでしかない。
彼女の「肉体」を額面通りに受け取るほど、私は言葉を信じてはいない。

思索的=男性的、感覚的=女性的のようなステレオタイプで処理できてしまう詩はつまらない。
宮沢賢治ばかりでなく、エミリー・ディキンソンも参考にしてほしいものである。
女性の感性にビビって、この種の詩に甘い評価をするおじさん詩人も、
つまらぬステレオタイプを助長する原因のひとつである。

現実との格闘なき異世界願望は「おままごと」的なファンタジーにしかならない。
小説では村上春樹、思想では〈俗流フランス現代思想 〉がそのような方向に向かったが、
現代詩も同様の病弊から逃れられないのは、それが(私を含めた)「バブル以降世代の病気」だからであろう。

 

 

 

評価:
暁方 ミセイ
思潮社
¥ 2,160
(2017-11-16)

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