『ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ』 (講談社現代新書) イリーナ・メジューエワ 著

  • 2017.11.21 Tuesday
  • 08:35

『ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ』 (講談社現代新書)

  イリーナ・メジューエワ 著 

 

   ⭐⭐⭐⭐⭐

   ロシア出身のピアニストによる名曲語り下ろし

 

 

イリーナ・メジューエワはロシアでピアノを学び、国際音楽コンクールで優勝したあと、
日本人と結婚をして、京都を活動の拠点としているピアニストです。
彼女がご主人(明比幸生)と編集者とを交えて日本語で語った「セッション」を、
独り語りの形にまとめたのが本書です。

10人の有名作曲家と、そのピアノ曲を1、2曲取り上げて語るのですが、
取り立ててクラシック通でもない僕は、曲名だけでどんな曲だったかわかるものは数曲でした。
(10年以上ピアノを習っていたのにお恥ずかしいかぎりです)
楽譜はたくさん載っているのですが、
CDかネットかで音源が聴けるようなサービスがあればありがたかったように思います。
僕はYouTubeで検索して全曲聴いたのですが、演奏家を選ばなければ結構あるものですね。

最初はバッハです。
『平均律クラヴィーア曲集』を取り上げるのですが、この曲のあまりの長さに驚きました。
最後にメジューエワのおすすめ録音として紹介されているスヴァトスラフ・リヒテルの音源がネットにあったので、ラッキーでした。
全体にメジューエワのオススメはやっぱりロシア人が多い気がしました。
『ゴルトベルグ変奏曲』では30ある変奏について、一つ一つ語っています。
第25変奏が一番泣けるとか、第26変奏が左右の手が交差する最も難しいところだとか、
聞きどころがわかりやすくなっています。

モーツァルトについては人間性に立ち入ったかたちで解釈をしています。
メジューエワは「シンプル」という言い方を好んでいます。
ニュートラルでシンプルなために弾きにくい、とも述べています。
展開部をドラマチックにして新しい形式を求めるベートーヴェンに対して、
モーツァルトは伝統の形式を超えようとしないで提示部の中にドラマを生み出すので、
形式性に対する闘いとは別次元にいる特殊な作曲家だという評価も興味深いものでした。

ベートーヴェンとショパンの対比もおもしろく感じました。
ショパンの作品はどれだけ難しくても手に無理がないので気持ちよく弾けるけれど、
ベートーヴェンは四つの声部の論理を優先する形式の名人なので弾く人のことは考えていない、
こういうわかりやすい対比をしてくれるので、専門的な知識がなくても楽しめます。
ベートーヴェンの作品としては『ピアノ・ソナタ第14番「月光」』が取り上げられています。
個人的なことですが、音源を聴いて、亡き母がよく演奏していた曲だということに気づきました。

続くシューベルトはロシア人に人気があるとのことです。
『ピアノ・ソナタ第21番』についての説明では、弾き手が深い解釈をもとにどう演奏するかを考えていることがよくわかります。
プロのピアニストが手の内を明かしてくれるのですから、なかなか贅沢な内容なのではないでしょうか。

シューマンの『クライスレリアーナ』は僕の好きなピアノ曲なので、
取り上げられていたことがうれしかったです。
シューマンに二面性があるという指摘は珍しくありませんが、
文学的でアイデア過剰な資質から楽譜上の指示も大げさだ、というのは面白かったです。
『クライスレリアーナ』の第2曲から第7曲まで「ゼア(Sehr)=とても」の指示が頻発します。
「ゼア」の入っていない指示を探すほうが大変、とメジューエワもシューマンのテンションの高さに呆れています。
第4曲では最後に休符の上にフェルマータがついているのですが、
「もう「え、えっ」ですね(笑)。どうすればいいの?」と語るところも楽しくなります。

ショパンのところで再びベートーヴェンとの対比がなされます。
二人ともポリフォニックな作曲家という点ではバッハの後継者ですが、
メジューエワはメロディストであるという点でショパンをよりバッハに近いと評価しています。
また、ベートーヴェンは多くの聴衆に語りかける音楽ですが、
ショパンには個人に聴かせるような親密さがある、と述べます。
バッハは誰が弾いてもバッハの音楽になるけれども、
ショパンは誰がどう弾いてもなかなかショパンにならないという怖さがあるとも述べます。

ショパンは言葉を削ることで詩を生み出す詩人のように、
本質は職人的で、複雑であると同時にシンプルだという指摘には、なるほどと思いました。
メジューエワはモーツァルトもシンプルと表現していたので、ここでショパンと重なるのですが、
最初のアイデアを大事にしていくショパンのやり方は、モーツァルトを意識しているとしています。

このあとリスト、ムソルグスキー、ドビュッシーとラヴェルに続くのですが、
長くなりすぎるのでここまでにします。
読みどころがたくさんあるので紹介しきれませんが、
僕よりもっとクラシックに詳しい人には何倍も楽しめる箇所があるのではないかと思います。
本書を読んだことで、CDでしか聴いたことのないメジューエワの演奏をやっぱり生で聴きたくなりました。

 

 

 

評価:
イリーナ・メジューエワ
講談社
¥ 972
(2017-09-20)
コメント:『ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ』 (講談社現代新書) イリーナ・メジューエワ 著

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