『福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」』 (講談社現代新書) NHKスペシャル『メルトダウン』取材班著

  • 2017.10.08 Sunday
  • 21:56

『福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」』

  (講談社現代新書)

  NHKスペシャル『メルトダウン』取材班著 

   ⭐⭐⭐

   極限での事故対応に正解を求めるなら

 

 

2011年の東日本大震災の津波によって引き起こされた福島第一原発のメルトダウンという未曾有の事態を、
はたして防ぐ手立てはなかったのか、それをNHKスペシャルの取材班が探ります。

本書の論点は、原子炉を冷却してメルトダウンを避ける方策として、
「イソコン」(アイソレーション・コンデンサーの略)という非常用冷却装置が起動していなかったことにあるように感じました。
吉田所長の「海水注入」の効果がなかったことについても第4、5章を割いて扱っていますが、
これは原子炉までの注水ラインに抜け道があって水が届いていなかったということなので、
届いていなかったことになぜ気づけなかったかという話になっていきます。
そこで吉田所長の疲労が問題になるのですが、
こうなると「今更言っても……」という思いが頭をもたげます。

福島第1原発には原子炉冷却のための多重バックアップがありましたが、
地震と津波の被害を免れた冷却装置は「イソコン」だけでした。
イソコンは原子炉で発生する水蒸気で動くので、電力が必要ありません。
これがきちんと働いていれば1号機のメルトダウンや水素爆発を防げたのではないか、というのが本書の問題提起です

実は地震後にイソコンは正常に動作して、順調に原子炉を冷却していたのですが、
津波による電源喪失の時に、イソコンも停止しました。
イソコンは電源が失われた段階で止まる仕組みになっていたことが、あとで判明するのですが、
中央制御室がイソコンの動作停止を確認するのに苦戦したことで、イソコンは停止したまま宝の持ち腐れとなってしまいます。

イソコンの動作停止がどうして確認できなかったのか。
本書ではその原因として、事故対応の現場である免震棟と中央制御室の間の情報共有の失敗と、
近隣への騒音配慮によるイソコンの稼働試験不足を挙げています。

どちらもその通りだと思いますが、僕は根本的な問題として
どうしても原発事故という「都合の悪いこと」を考えたくない、という「日本人のナルシス精神」に問題があるように感じてしまいます。
本書でもそれを感じさせる記述がわずかに見られます。

アメリカでは5年に一度イソコンの実動作試験を行なっているのに、
福島第一原発では40年近く行われていませんでした。
本書取材班がその理由を探求した結果、旧通産省の保安規定文書の中にヒントを見出します。
「報告書の記述を借りると、日本の原発は海外の原子力施設より高い信頼性を確保してきており、
引き続きこの考え方を採り続ける限りにおいて、当該運転中サーべランスを導入する必要はない」
(サーべランスとは定例試験のことです)

試験する必要がないくらい原発は高い信頼性がある、という信仰にも似た感覚は、
不安を打ち消したいがための「強いもの」への依存的精神を感じずにはいられません。
戦時中の軍部のシミュレーションであったことですが、
「日本は神国だからこんな魚雷は当たらない」と勇ましげな言葉で、
実は潜在的な不安と向き合うことを避ける精神と同じものに思えます。
日本では、現実的な不安と向き合うことを避けるために、
権力の代弁者となって「見せかけの安楽空間」を作りたがる「脆弱な精神」が支持されやすい国なのです。

自分たちの「痛いところ」に踏み込まないで、この問題の「失敗の本質」を探求したことになるとは僕には思えません。
自らを被害者の立場に置いて、単に事業者や政府を批判する姿勢では何度も同じことを繰り返すことに終わるのではないでしょうか。

 

 

 

評価:
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講談社
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(2017-09-22)
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