『斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史』 (中公新書) 榎村 寛之 著

  • 2017.10.01 Sunday
  • 10:25

『斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史』 (中公新書)

  榎村 寛之 著 

 

   ⭐⭐⭐⭐⭐

   伊勢斎王という日陰の歴史

 

 

南北朝の後醍醐天皇に至るまでの間、天皇の代理として伊勢神宮に仕える斎王という存在がありました。
その斎王の住まいのことを斎宮と呼びならわしているようです。
(古代は場所と人の呼び名の区別が不明瞭でしたので、明確に区別されていたかはわかりませんが)
天皇の代替わりごとに未婚の皇族女性が選ばれて神に仕えるため、伊勢神宮に滞在するのですが、
女性として花の咲く時期に恋もできずに親元から伊勢へと赴き、
帰京できたとしても、内親王は皇族としか結婚できないという規定があるので、
元斎王は独身で終わることも珍しくありません。
そのため最近は恋愛ものの漫画などで題材にされていたりします。

榎村は伊勢斎宮についてすでに多くの著書を書いているので、
斎宮の歴史的成立や制度的基盤についての専門知識は豊富にあるのですが、
本書では学問的な話は最初と最後に軽くまとめているだけで、
多くは歴史に名を残している斎王たちの人生ドラマを紹介しています。
歴史に強い関心がない人でも興味が持てる本になっていると思います。
(榎村は「何の役に立っているかわからない」斎王制度の話は「それほど面白くない」ので、
斎王の生き様を紹介した第2章「七人のプリンセス」から読むことを勧めています)

斎王は崇神天皇のときのトヨスキイリビメ(豊鋤入姫)に始まるとされています。
歴代斎王記である『斎宮記』や『日本書紀』の記述にそうあるのですが、
本書を読むと、天武天皇期の大来皇女からが信頼できる記録のようです。
伊勢神宮が制度的に整備されたのが文武朝と言われるので、そのあたりから斎宮は制度として機能するようになったのでしょう。

第2章では7人の斎王が紹介されます。
天武天皇の娘の大来皇女は、謀反嫌疑で殺された弟の大津皇子を思う歌が有名です。
榎村は大来皇女が斎宮で最新の歌の教育を受けていたと推測しています。
元明から聖武期に斎王だった井上内親王は、帰京したのち夫が光仁天皇となったため皇后になった人物です。
しかし、天皇やその娘を呪い殺そうとした罪で幽閉されて死去します。
桓武天皇の娘である朝原内親王は、藤原薬子を寵愛した平城天皇との離婚が記録されています。
朱雀期の徽子内親王は、村上天皇の女御となって歌人として名声を得ました。
950年以降になると、天皇の娘である内親王に適合者がいないため、
親王の娘である女王が斎王に選ばれることが増えていきます。
後一条天皇期の嫥子女王もその一人です。
彼女の父の具平親王は、紫式部と親しい関係だったと想像されるために、
光源氏のモデルとも言われています。
その斎王嫥子は荒祭宮の神に憑かれた状態で、朝廷を糾弾する託宣を告げる事件を起こします。
斎宮寮の長官の藤原相通が地位を利用して私腹を肥やし、伊勢神宮の権益に害をなしていることが問題だったようです。
金の問題で神様を担ぎ出すのは、いつの時代でもありそうなことではあります。

次の斎王は良子内親王ですが、伊勢への旅(群行)の様子が同行者の日記に残されていて、
彼女の気持ちやファッションを窺い知ることができます。
媞子内親王は3歳から9歳まで斎王だっただけなのですが、
その後結婚することもなく中宮になるというミラクルが起こります。

第3章も斎王たちについてのエピソードが満載です。
『伊勢物語』で在原業平との秘密の恋が描かれた恬子内親王や、
花山天皇と斎王済子をめぐるドタバタ、
杉田圭の漫画『うた恋。』で有名になった当子と藤原道雅の話、
源頼朝が意外にも斎王制度復活に助力していたことなどが書かれています。

第4章は斎王をめぐる少しマニアックな話が展開します。
第5章は「斎宮とは何だったのだろう」と題され、斎王制度を歴史的視点で考察します。
『日本書紀』に「斎」という職名が出てくることはなく、『続日本記』になって見られるようです。
斎王が制度として確立するのはいつなのか、
祭祀とその役割は何であるのか、
仏教との関係はどうだったのか、
このあたりは伊勢神宮にまつわる専門的な内容であるため、
少ない紙幅のわりに情報量が多く、僕には理解が及びませんでした。
興味のある方はじっくり読むことをお勧めします。

とにかくボリュームのある一冊ですが、
斎王がなぜ必要だったかという肝心な点に関しては、榎村は明確な答えを出していない気がします。
もともとは神に仕えるということですので、人身御供の延長だと考えることもできます。
そのあたりには触れたくないのでしょうが、まったく触れないというのも不自然な気がしました。

 

 

 

評価:
榎村 寛之
中央公論新社
¥ 994
(2017-09-20)
コメント:『斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史』 (中公新書) 榎村 寛之 著

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