『リベラルという病』 (新潮新書) 山口 真由 著

  • 2017.09.15 Friday
  • 21:34

『リベラルという病』 (新潮新書)

  山口 真由 著 

 

   ⭐

   リベラル矮小化という病

 

 

学のない人が狭い自分の実感と俗流の発想でリベラルを批判する本です。
山口は「はじめに」でこう述べます。

 私はアメリカの政治や思想を専門とする者ではない。だから、この本
 は、東京大学とハーバード・ロースクールの両方で学び、両国の司法
 試験に合格した経験や、また財務官僚として国家のために働いた経験
 に、主に基づく。

たしかにII章とIII章は司法におけるリベラルとコンサバの対立の話なので、
日本とアメリカの「両国に司法試験に合格した経験」をお持ちの方らしく、
それなりにまともなこと(退屈なこと)を書いていましたが、
読者が本書で注目するであろうリベラル批判の部分は、エリート意識を盾にして素人実感を垂れ流している印象でした。

まず、山口はアメリカのリベラルを「リベラル信仰」とし、
それが「宗教として認識されていないことの弊害は大きい」と述べます。
しかし、リベラリズムはイデオロギーであったとしても、宗教ではないでしょう。
狭義の宗教は、神が存在し、教祖が存在し、聖典が存在するものです。
広義の宗教としても、儀式や信仰形態は存在していなければなりません。
リベラリズムはあくまでイデオロギーであって、物理的基盤は確認できません。
こんなことは専門家でなくても理解できることだと思います。

そもそも山口のリベラルの把握自体が俗流でいいかげんです。

 こう考えると、リベラルとコンサバを貫くものが見えてくる。リベラ
 ルの根底にあるのは、人間の理性に対する信頼、逆に、コンサバの方
 は徹底的な不信だ。

こんな定義をよく書けたものだと呆れ果てるしかありませんが、
こういう俗流の発想は「保守オヤジ」に媚びたリベラル(そしてコンサバ)の矮小化もいいところです。
リベラルは弱者擁護の理想を建前でふりかざす「お花畑」、コンサバは本音で懐疑的な強き「野生」とでもいうのでしょうか。
こういう発想はネオ・ダーウィニズムを基礎とした、資本主義的な弱肉強食思想、
要するにネオリベラリズムに由来するものでしかないことがわかります。
本来のリベラルは国家主義的な権力の暴挙に対して、個人の自由を主張する態度を基礎としているはずです。
山口は「コンサバには、自分への懐疑が常にあった」とするので、
基礎的なことを理解せずに、時流によって生じたネオリベ的な視野狭窄をそれこそ「自分への懐疑」もなく垂れ流している
山口自身はリベラルな人間ということになるのではないでしょうか。

論理が支離滅裂なので、山口はおかしなことを言いだします。
山口は「リベラル信仰」を国家が「布教」しているとします。
「要は、国家のような圧倒的権力が、ひとつの価値観を広めること自体が問題なのだ」と言うのですが、
このような国家の暴挙に対する反発というのは、本来はリベラルの態度なのです。
自分でリベラルを矮小化しておいて、それを実質リベラルな言説で批判する山口の目的はどこにあるのでしょう?

だいたい、こう述べた直後に山口はアメリカ司法界のリベラルとコンサバの対立について語るわけですから、
アメリカが国家ぐるみでリベラルを「布教」しているとするのは事実ではないわけです。
共和党と民主党の二大政党があるように、対立軸を保持しているのがアメリカです。
どうして「リベラル信仰」という「ひとつの価値観」だけを国家が広めているなどと言えるのでしょうか。
それなら、どうしてD・トランプは大統領に当選できたのでしょうか。
帯には「日本の若き知性」などと書かれていますが、
この人の知性に「徹底的な不信」を抱いてしまう僕は、おそらくコンサバなのでしょう。

さらに気になったことを言えば、
山口は日本の民進党をリベラルとするのですが、それも解せません。
なんといっても、当の山口が民進党だけでなく自民党も「イデオロギー的な核がない」と述べているのですから。
山口は民進党が政策に軸がなくカメレオンのように変化するのは、対する自民党自体がそうであるからだと言います。
これはまったくその通りだと思います。
それなら問題は自民党(と日本国民)にあるはずですが、なぜか山口は民進党の批判に勤しみます。
このあたりが「保守オヤジ」に媚びていると感じるところですが、新潮新書だから仕方ないのでしょうか。
しかし、それなら民進党がリベラルだという判断そのものが間違いだということになると思います。
僕は民進党をリベラルだと思っていませんし、当初から自民党の二軍だと思っていました。
一軍が不甲斐ないから二軍にチャンスを与えたが、やっぱり一軍の方がマシだったというのが、政権交代の実情だと思っています。

以上、本書は本書の中だけですでに論理破綻しています。
帯には「「正しさ」には限界がある」と書いてありますが、
いくら限界があるにせよ、ここまで論理破綻していてOKというわけにはいきません。
「正しさ」を批判する人物がこんな程度だと、
無責任な仕事でもいいじゃないか、と言われているだけに思えてしまいます。

 

 

 

評価:
山口 真由
新潮社
¥ 821
(2017-08-09)
コメント:『リベラルという病』 (新潮新書) 山口 真由 著

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