『観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』 (中公新書) 亀田 俊和 著

  • 2017.07.30 Sunday
  • 20:47

『観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』 (中公新書)

  亀田 俊和 著 

   ⭐⭐⭐⭐⭐

   歴史の奥にある人間ドラマに迫る

 

 

室町幕府の初代将軍である足利尊氏とその血を分けた弟である足利直義、
この二人の兄弟喧嘩ともいうべき争いを「観応の擾乱」と呼んでいます。
(この名称は意外にも最近になって使われるようになったようです)
ただでさえ南朝と北朝で争っていた時期に、幕府でもトップの二人が争っていたわけですから、
どれだけ混迷した時代であったかがよくわかります。
本書は観応の擾乱の主役格二人、『足利直義』と『高師直』という著書を出している亀田が、
出来事の一部始終を遺憾なく描き出したものです。
混迷期の状況を詳しく描いているので、抜群に読み応えがあります。

観応の擾乱は歴史上の出来事なので、歴史事実の積み重ねで描くことはできるはずなのですが、
室町幕府という組織内部の権力争いという面が大きいので、
組織内の人間関係と組織の制度論の両面からの考察が必要になります。

恩賞を司る尊氏と所領安堵を司る直義の二頭政治のシステムや、
裁判制度の変化などの制度面からの歴史学的なアプローチに加えて、
どうして尊氏と直義が争うことになったのか、
尊氏は実の息子の直冬をどうして忌み嫌ったのか、
直義が高師直と対立した理由はどこにあったのか、
尊氏と嫡子の義詮との関係はどうだったのか、
というような人間関係や人物の内面についても、
亀田ができるかぎり踏み込もうとしているのが本書の魅力だと思います。

僕は足利尊氏の人間性に興味があります。
尊氏は南朝の後醍醐天皇を慕っていて、本心では対立したくはなかったようです。
周囲の要望に押されて幕府を作ることになってしまいましたが、
それもどこか不本意であったのか、政務のほとんどを弟の直義に任せてしまいました。
室町幕府がこのように消極的に始まったということは、僕は最近まで知りませんでしたが、
不本意とはいえ、権力を手にしながら行使することに興味がない人物というのは、
あまり例を見ないのではないでしょうか。
このような尊氏の常識ではかりにくい人間性が、観応の擾乱を理解することの難しさにつながっている気がします。
(本書には尊氏が精神障害だったという説を唱えた人もいることが書かれています)

亀田は観応の擾乱の後半になって、消極的だった尊氏が別人のように政治力を発揮したと解釈し、
人生後半で人間がこんなに変われることに勇気がもらえると書いているのですが、
僕はもともと足利尊氏は傑出した政治力と人望を持った人だったのではないかと思っています。
本人に積極的な気持ちがないのに将軍として君臨できたのは、それだけ周囲に支持される人間だったからではないでしょうか。
そんな尊氏が積極的に能力を発揮するようになったのは、息子の義詮を託した執事の高師直が殺されたためでした。
義詮の後ろ盾がいなくなれば、尊氏は隠居している場合ではありません。
そこで積極的に自らが動く気持ちになったということも考えられるような気がしています。

その意味で、本書で紹介されている『梅松論』にある夢窓疎石の尊氏評は興味深いものがあります。

/瓦強く、合戦で窮地に立っても怖れなかった。
∋悲天性で、人を憎むことがなかった。多くの怨敵も我が子のように寛大に許した。
心が広く、武具や馬などを惜しまずに人に与えた。

『梅松論』が中立的でないにしても、尊氏の人間性の一端は想像できます。
このように、観応の擾乱は歴史人物の内面への興味を掻き立てる事件でもあります。
本書は読者が自分なりの観点で読んだとしても、それに応えるだけの視野の広さを備えた良書だと思います。

 

 

 

評価:
亀田 俊和
中央公論新社
¥ 929
(2017-07-19)
コメント:『観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』 (中公新書) 亀田 俊和 著

calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< June 2019 >>

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM