『頼山陽とその時代(上)』 (ちくま学芸文庫) 中村 真一郎 著

  • 2017.07.16 Sunday
  • 21:56

『頼山陽とその時代(上)』  (ちくま学芸文庫)

  中村 真一郎 著 

 

   ⭐⭐⭐

   頼山陽を忘れるくらい周辺人物の研究が濃密

 

 

頼山陽は師匠の菅茶山とともに江戸時代を代表する漢詩人として有名です。
漢詩にお堅いイメージを抱いていたので、山陽は学者然とした真面目な人物だろうと想像していました。
岩波文庫の『頼山陽詩選』では彼の代表作には親しめるのですが、
その為人を知るには巻末の年表しかなく、淡々と記された波乱の生涯とのギャップが埋められずに困りました。
そこで僕は頼山陽の生涯やその周辺人物について詳しく書かれている本書に手を伸ばしたのです。

著者の中村真一郎は福永武彦、加藤周一らと「マチネ・ポエティック」を結成した作家ですが、
彼自身が神経症に悩まされていた経験から、
頼山陽の破天荒な生涯が彼の精神的「病気」によるものと考えるようになったようです。

山陽は精神的にどこか異常であって、そのため急に行方をくらましたり、
遊蕩にふけったりして、事件を引き起こしたりします。
中村は山陽の放蕩を「精神の自由」の現れだと解釈しています。

 放蕩はたしかに、京都の自由な生活の現れのひとつであった。
 それは内面的な自由を獲得するための生き方から、必然的に
 導き出されて来たものだった。放蕩は、彼を縛る古い因習と
 厄介な病気からの解放のための手段だった。

江馬細香をはじめとする女弟子との交際に関しても、
中村は男女の対等な関係という「精神の自由」の現れだと述べています。
僕は江戸時代の性関係は相当に自由だったと思っているので、
山陽の女癖の悪さに「精神の自由」という高尚な解釈を持ち出すのはがんばりすぎに思えましたが、
素行の悪さを含めて山陽の魅力であるというのはわかる気がします。

実は山陽の生涯を扱った第一部は上巻全体の3分の1以下でしかありません。
それから山陽の父である頼春水とその知友について、漢詩作品を紹介しつつ述べられます。
菅茶山についても触れますが、わりとあっさりしています。
そのあとは叔父である頼杏坪について、それから山陽の子供達について述べられます。
山陽の三男鴨涯は三樹三郎ともいい、安政の大獄で死罪になっています。
この辺りの記述もボリューム感があるのですが、まだ頼山陽の一族なのでなんとかなります。

次に山陽の友人について長々と書かれます。
ここで森鴎外の晩年の作品にも描かれた北条霞亭が登場するのですが、
この霞亭と山陽の関係については非常に面白く感じました。
特に霞亭が優柔不断だという中村の分析が非常に的確な感じで楽しめました。
(それでも『渋江抽斎』が苦しかった僕には鴎外の『北条霞亭』を読む勇気はありませんが)
しかし、それ以外の友人は聞いたことのない人物ばかりで、
興味を持つのも苦しく読み進むのが遅くなっていきました。

そのあとは京坂の儒学者たちについて書かれています。
関西人の山陽は江戸っ子気質だったためか彼らと敵対するようになります。
勤勉なことに中村は彼らに対しても筆を惜しむことなく長々記述します。

僕はようやく上巻を終えたところですが、
もはや頼山陽がどこか遠くにいってしまった感じがします。
本書自体が神経症的な緻密さを持っていると感じました。
周辺人物へのこれだけ執拗な記述というのは、ちょっと類書が思いつきません。
すごい仕事だとは思いますが、完読主義の人間にとってはかなり厳しい本です。
下巻は江戸の学者や弟子たち、そのあとに山陽の作品に触れるようです。
最後に山陽に戻るまでがんばって読みきろうと思います。

 

 

 

評価:
中村 真一郎
筑摩書房
¥ 1,620
(2017-03-08)
コメント:『頼山陽とその時代(上)』 (ちくま学芸文庫) 中村 真一郎 著

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