『江戸時代 恋愛事情 若衆の恋、町娘の恋』 (朝日選書) 板坂 則子 著

  • 2017.07.14 Friday
  • 21:50

『江戸時代 恋愛事情 若衆の恋、町娘の恋』

  (朝日選書)

  板坂 則子 著 

   ⭐⭐⭐⭐

   江戸時代の「性事情」研究

 

 

江戸の「恋愛事情」と題されているので、軽く楽に読めるのではないかと油断していましたが、
実際は江戸時代の「性事情」を学問的に研究した硬派な本でした。
板坂は専修大学教授で江戸期のジェンダーを研究しているのですから、それも当然かもしれません。

読み慣れない江戸時代の物語が数多く紹介されるので、
その内容を把握するだけでも情報量が多くて処理が大変なのですが、
多くの作品に触れることはそれだけでも勉強になります。
軽く読み流すことはあきらめて、一章ずつじっくり読んでいきました。

前半は江戸時代の男色文化を中心に取り上げています。
男性同士の恋愛は対等な関係ではなく、
年長の男性「念者」が十代の美少年「若衆」を恋慕する固定的な上下関係で成立しています。
板坂は男色は武家の文化として語られ、女色よりも高貴なものとして捉えられていたことに注目し、
その理由を仮名草子の作者が知的エリートの男性であることに求めています。

第2章は井原西鶴の『男色大鑑』を取り上げてくわしく紹介しています。
『男色大鑑』にはいくつもの話が収録されているのですが、
若衆が受け入れる相手である念者が、
武芸に秀でながらも地位に恵まれない下層の人だというのが興味深いところです。
板坂は西鶴が若衆を理想化していることから、
男色の世界の底流に強い女性嫌悪の存在を指摘します。
「本来的に女性を忌む姿勢が、若衆を聖的な者として崇める下地として必要」なのです。

さらに板坂は江戸の男色をギリシャの少年愛と比較しています。
古代ギリシャの美少年が、地位も財力もある保護者として相手を選ぶのに対し、
武家の若衆はあえて権威ある者を避けて不遇の者の熱意に応じることから、
若衆は年者に対して身分の上下関係を逸脱した優位性を持つことになり、
主君に仕える小姓とは違う神聖な存在という権威づけがなされると言うのです。

第三章では性愛の描かれ方を扱っています。
ここでは数多くの図版を掲載して、
絵巻や浮世絵によっていかに性行為がヴィジュアルとして先行していたかが示されます。

第四章は春画や春本に見られる若衆の性愛に迫ります。
ここでも多くの図版によって実例が示されるのですが、
男性同士の性愛図がけっこう存在していることにまず驚きます。
板坂は図に描かれた若衆が職業的な売色でしかなく、主導権を握らない受動的立場であることに注目し、
年長者との間に固定した上下関係が見られる点で武家の男色と異なるとし、
若衆の肉体的地位が「女性の代替物に近い存在」に下降したと考察します。

次に女性を相手とした若衆の性愛図も取り上げられます。
男性である若衆よりも女性の側に主導権があるように描かれ、
女性が性交の主体として上下関係を流動化させる楽しみ方をしていたことがわかります。
板坂は、このような女性主導の性行為は実際になされたものではなく、
女の夢として描かれたものだと考えているのですが、
こういうところから現代のジャニーズ文化やBL文化との関連を考えることもできそうです。

後半は戯作に描かれた色男像や浮世絵に描かれた女性像や男性像などのヴィジュアル的なアプローチ、
江戸期の少女や身体についての考察などが続きます。
ボリュームが多く読み応えも十分ですが、僕には前半の方が興味深かったです。
帯文には「江戸と現代は、こんなにそっくり⁉」と書かれていますが、
全体に江戸の性愛や男女の身体に対するジェンダー的な研究がしっかりなされていて、
現代との類似性が取り上げられている気はしませんでした。

 

 

 

評価:
板坂則子
朝日新聞出版
¥ 1,836
(2017-06-09)
コメント:『江戸時代 恋愛事情 若衆の恋、町娘の恋』 (朝日選書) 板坂 則子 著

calendar

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< March 2019 >>

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM