『すごい進化 - 「一見すると不合理」の謎を解く』 (中公新書) 鈴木 紀之 著
- 2017.06.18 Sunday
- 15:15
『すごい進化 - 「一見すると不合理」の謎を解く』
(中公新書)
鈴木 紀之 著
⭐⭐⭐⭐⭐
適応と制約のせめぎ合い
突然変異で生じた形質が自然淘汰を乗り越えることを「適応」、
その適応を妨げる体躯や環境などの要因を「制約」と言うようです。
「適応」を重視しすぎる適応主義者は、ほとんどの形質が最適化されているという信念に囚われ、
「制約」という要因を軽視しすぎだとスティーブン・ジェイ・グールドに批判されたりしました。
著者の鈴木は適応と制約のせめぎ合いの中で、進化の「暫定的な真実」を定めるほかないと述べます。
鈴木は本書で不合理としか思えない生態を取り上げ、
それがあくまで適応の結果であることを説明していきます。
第二章は「見せかけの制約」と名づけられ、
制約ですまされてしまうような生態を適応アプローチから見直していきます。
昆虫の卵の大きさは母親の胎内のメカニズムという制約によるものではなく、
合理的な生き残り戦術であるというのです。
大きな卵を産むより、小さな卵とその栄養になる共食い用の卵(栄養卵)を産む方が生存に有利だと明らかにしていく過程は、
推理小説の謎解きを読んでいるような面白さがあります。
第三章はクリサキテントウがマツ類のアブラムシだけを食べるスペシャリストになった理由を探ります。
ナミテントウというどの木のアブラムシも食べるジェネラリストがいるだけに、
クリサキテントウがなぜマツオオアブラムシだけを食べるのかは不思議です。
そんなに美味しいのか、とも感じてしまいますが、
鈴木によると、マツオオアブラムシというのは捕まえにくい、栄養もイマイチ、量も少ない、と餌としての利点は感じられないのです。
おまけにクリサキテントウは他のアブラムシでも育つのです。
こういった事情から、クリサキテントウがマツオオアブラムシを主食としているのは、
「一見すると不合理」となるわけですが、この謎を鈴木はアクロバティックな方向から解いていきます。
その鍵は「求愛のエラー」というものですが、このあたりは実際に本書を読んで楽しんでいただきたいと思います。
かなり専門的な話ですが、鈴木の説明が明晰で丁寧なので門外漢でもストレスなく読み進められます。
第四章は主に有性生殖について語られます。
オスが無駄という余裕によって魅力をメスにアピールすることを説明する「ハンディキャップ理論」や、
病原菌や寄生者への多様なバリアを生み出すために有性生殖が生まれたとする「赤の女王仮説」の限界など、
進化生物学の興味深い理論なども知ることができます。
鈴木は「進化はすごい」という信念で本書を執筆したそうですが、
僕が本書を読みながら感じたことは、
進化を合理に説明することへの欲望こそが「すごい」ものだということです。
いつか人間という種への進化の合理性も説明できる日が来るのでしょうか。
評価:
鈴木 紀之 中央公論新社 ¥ 929 (2017-05-19) コメント:『すごい進化 - 「一見すると不合理」の謎を解く』 (中公新書) 鈴木 紀之 著 |
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