『シリア情勢――終わらない人道危機』 (岩波新書) 青山 弘之 著

  • 2017.04.06 Thursday
  • 10:01

『シリア情勢――終わらない人道危機』 (岩波新書)

 青山 弘之 著 

 

   ⭐⭐⭐

   想像以上の複雑さ

 

 

街が戦場となり、多数の死者と難民を生み出しているシリア情勢について、
断片的な情報は耳にしても、全体像を描くのは困難です。
本書で青山は複雑なシリア情勢を冷静かつ具体的に記述することを試みています。

シリアの混迷は2011年の「アラブの春」による民主化運動に端を発しています。
独裁政権とも言われるアサド政権に対し、民主的な反対デモが起こりましたが、
著者の青山によるとその規模は大きなものではなかったようです。
そのため、実際にアサド政権に対抗したのはデモを利用した「反体制派」となり、
その両者の間で内戦が繰り広げられていくのです。

青山が強調するのは、
「悪」のアサド政権を打倒する「反体制派」を「善」とする見方が一面的すぎるということです。
「反体制派」といってもその内実は多様かつ複雑で、
巻末の一覧表を見るだけでも頭が痛くなってきます。
なにしろ「反体制派」といっても穏健派ばかりでなく、
そこにはアル=カーイダ系のイスラム過激派であるヌスラ戦線や、
あのISIS(通称「イスラム国」)も含まれているのです。
アサド政権が「悪」ならISISは「善」かといえば、そんなわけはありません。

アサド政権が化学兵器を使っているという報道もありますが、
国連の調査では「反体制派」も化学兵器使用の可能性を指摘されています。
もはやどちらに肩入れしても「善」にはほど遠い状況が想像できます。

多数の国家がそれぞれの立場でシリア情勢に関与していることも、事態を複雑化しています。
ロシアの空爆の報道も耳にする機会は多いですが、
そもそもシリアにはロシア海軍の補給基地があり、
その軍事的価値のためにロシアはアサド政権を守る必要があることを青山は指摘します。

トルコやサウジアラビアはイスラム過激派などの「反体制派」を支援しているようなのですが、
トルコはクルド人のテロ組織と戦ってきた歴史があるため、
「反体制派」のPYDというシリアのクルド民族主義政党を敵視しています。
ややこしいかぎりです。

イスラエルにとっては自らの安全保障のため、
敵対するヒズブッラーを支援するアサド政権の弱体化は歓迎ですが、
アサド政権が倒れたあとのシリアがどうなるかわからないため、
弱体化したままアサド政権が延命することが好都合となります。

このように一部を書いただけでもシリアに介入する国々はそれぞれの思惑を抱えていて、
整理して理解するのは至難の業に思えました。

また、戦災者の救助や治療を行うホワイト・ヘルメットは、
ノーベル平和賞にもノミネートされたので、
僕は人道的な市民集団のように受け止めていましたが、
青山によるとホワイト・ヘルメットはヌスラ戦線と親密な関係が指摘されているようです。
彼らは「反体制派」寄りであって、中立ではないと言うのです。
ホワイト・ヘルメットも安易に信じてはいけないのか、と正直驚きました。

読めば読むほど混迷が深まるような印象で、
シリア情勢を理解してスッキリするというような本ではありませんでした。
シリアの現状そのものを描き出すとこうなるのは仕方ないと思いますが、
混迷の原因に迫る考察が見られないのは物足りなく感じました。

 

 

 

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