『俳句と暮らす』 (中公新書) 小川 軽舟 著

  • 2017.01.11 Wednesday
  • 09:44

『俳句と暮らす』  (中公新書)

  小川 軽舟 著

 

   ⭐⭐⭐⭐⭐

   気負いのない日常詠の魅力への強い信頼が美しい

 

 

小川軽舟は俳句結社「鷹」の主宰で、さまざまな賞の審査員でも知られる俳人です。
「鷹」は俳句を作らない僕でも知っている有名なグループなので、
多くの人に「先生」と呼ばれる立場の人だと思います。

そのため、自然を愛でる花鳥諷詠の世界や
短く洗練された詩的な境地が描かれているのかと思いきや、
軽舟自らの単身赴任のサラリーマン生活を紹介しながら、
生活に裏付けられた俳句のあり方や読み方を気負いなく描いています。

軽舟は東京の銀行から大阪の鉄道会社に勤務するにあたり、単身赴任生活を選択しました。
それまで妻に任せていた台所に初めて自分で立つようになった実感から、
最初の「飯を作る」の章が書かれています。
調理に関わる俳句の数々を紹介しながら、
俳句の背後にある実感をわかりやすく説明しているので、
今まで俳句に馴染みの薄い人にも壁を感じさせない内容になっています。

とはいえ、軽舟の俳句観は狭い日常にとどまるというわけでもありません。
次章の「会社で働く」では、金子兜太の社会性俳句「銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく」などを取り上げ、
実感による実景がどのように象徴へと高められるかをさりげなく語ったりします。
注意深く読めば、俳句経験者の勉強になる部分も少なくないように感じました。

男にとって妻のことを語るというのは気恥ずかしい面もありますが、
(僕もレビューで自分の妻について触れたことはないのですが)
「妻と会う」の章では、妻や夫を詠んだ俳句が紹介されます。
愛妻俳句の権威(?)中村草田男はもちろん、森澄雄の句を取り上げ、
妻を詠むことが社会性を脱ぎ捨てたほんとうの自分を表すことになると軽舟は語ります。
軽舟自身の妻を詠んだ俳句も自然体で扱われています。

軽舟は日常の終わりである死を扱う俳句を取り上げたあと、
最後の章を松尾芭蕉の句に割いています。
漂泊の詩人という芭蕉のイメージを、生活に密着した視点で捉え直す試みがされていて、
軽舟の俳句観の芯の太さを印象づけています。
芭蕉が日本橋の都会生活を離れて深川に隠者の庵を構えたことは、
漢詩の世界のパロディを実践する「俳句とともに暮らす新しいスタイル」だったという解釈も新鮮でした。

本書で軽舟は日常と寄り添う俳句の力強さを伝えています。
気負いのない文章ですが、しっかりした信念を感じました。
とりわけ、自身の日常を隠さず語るオープンな姿勢が好ましく、
権威など必要としない他者への訴えかけのあり方は、
僕には「俳人」と呼ぶのにふさわしい態度に思えました。

一部の俳人にアイロニカルであることが詩的な姿勢だと勘違いしている疑いのある輩がいますが、
インターネットに親和的なそのような態度が、
本当に俳句にふさわしい態度なのか再考する必要があるのではないでしょうか。

 

 

 

評価:
小川 軽舟
中央公論新社
¥ 842
(2016-12-19)

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