『民主主義の内なる敵』 (みすず書房) ツヴェタン・トドロフ 著

  • 2016.10.09 Sunday
  • 08:57

『民主主義の内なる敵』 (みすず書房)

  ツヴェタン・トドロフ 著

 

   ⭐⭐⭐

   民主主義の「行き過ぎ」が招く危機

 

 

ロラン・バルトの弟子筋にあたるツヴェタン・トドロフはブルガリアの生まれで、
共産主義国家の問題を身をもって体験し民主主義の価値をよく知る人物ですが、
そんな彼が民主主義の「行き過ぎ(デムジュール)」に警鐘を鳴らしています。

トドロフの専門は記号論であるはずなので、
本書に専門的な視点による難解さはありませんが、
視野がヨーロッパに偏っているため、
具体的事例などが僕にはついていきにくいところがありました。

トドロフが挙げる民主主義の内なる敵という言い方をしているのは、
ナチスや共産主義などの民主主義外部のわかりやすい敵がなくなったため、
民主主義の敵は民主主義自身の「行き過ぎ」にあるとするからです。
具体的に言えば、それはポピュリズム、ウルトラ自由主義、メシア信仰です。

政治的なメシア信仰、個人の専横、新自由主義、ポピュリズムと外国人嫌いに
それぞれ一章が割かれて詳細な説明がなされていますが、
正直に言うと、あまり最初の結論を深めるほどの内容を感じませんでした。
良く言えば妥当ですし、悪く言えばわかりきったことを言っている印象でした。

特に「行き過ぎ」に対する有効な処方箋が民主主義の再生、見直しという
非常に抽象的なもので終わっていることには物足りなさを感じました。
「政治的なメシア信仰」の章はいまだに共産主義批判をやっているという感じで、
マルクス主義が差異を消滅させるとか、
諸国家が道徳と正義の名のもとに己の利益を追求したとか、
差異の称揚と道徳批判といういかにもフランス現代思想的な結論を確認しただけに思えました。

結果として本書は民主主義の内なる敵を描きえているというよりは、
リベラル思想の機能不全を印象づけています。
トドロフは民主主義の「行き過ぎ」を問題視する一方で、
民主主義体制の中で生きることは他の体制よりも良いと述べます。

相対的に見れば悪くない体制が、徐々に内側から蝕まれていくことに対して、
われわれは打つ手もなくジレンマを感じているしかないのでしょうか。
それを打開するヒントを僕は本書に見つけられませんでした。

 

 

 

評価:
ツヴェタン・トドロフ
みすず書房
¥ 4,860
(2016-07-26)

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