『死すべき定め――死にゆく人に何ができるか』 (みすず書房) アトゥール・ガワンデ 著

  • 2016.08.28 Sunday
  • 08:04

『死すべき定め   死にゆく人に何ができるか』

  (みすず書房)

  アトゥール・ガワンデ 著/原井 宏明 訳

   ⭐⭐⭐⭐⭐

   医学は終末期と向き合えるか

 

 

著者のガワンデはハーバード大学教授ですが、現役の外科医でもあるので、
現代アメリカの医療現場をよく知る人です。
「ニューヨーカー」誌のライターとしての活躍し、
すでに評価を得た著作もあり、非常にすぐれた書き手です。

本書は医学的に完治する見込みのない終末期患者が、
自らの充実した生活を持続するためにどのように苦闘し、
どのような挫折を味わいながら亡くなっていったかのルポになっています。
最後にはガワンデ自身の父親(彼も医師)の終末期の苦闘が生々しく描かれ、
父を看取る息子という視点から問題が捉えられているために、
自然と読む者の心を揺さぶってきます。

表面的には終末期患者のルポというかたちで読むことができますが、
ガワンデが本書の随所で投げかけている問題提起は明らかです。

 現代の科学技術の能力は人の一生を根本的に変えてしまった。
 人類史上、人はもっとも長く、よく生きるようになっている。
 しかし、科学の進歩は老化と死のプロセスを医学的経験に変え、
 医療の専門家によって管理されることがらにしてしまった。そ
 して、医療関係者はこのことがらを扱う準備を驚くほどまった
 くしていない。

医療の発達によってわれわれは病気は治るもの、治すものと認識するようになりました。
それが「死」を不可視にし、「絶望」の先延ばしとして現れます。
しかし、「死」はやはり人間の「定め」なのです。

ガワンデは西洋医学が病気の治療だけを対象とし、
避けられない死を前にしても患者に治療の努力を強いることで、
かえって患者を死に至るまで苦しめることになっていく現状を、
変わりつつあるものとして捉えています。

 新しいやり方は、どうやって死すべき定めに直面するか、忠誠
 と個人の尊厳を伴う有意義な人生の細い糸をどうやって保つか
 を、みなが一緒になって考え抜くことである。

本書ではナーシングホームという寝たきり患者の介護福祉施設が、
いかに患者の自由を損なっているかについても詳しく書かれています。
その改革の試みについても触れていますが、問題は簡単ではありません。
現状ではホスピス治療が患者にとってマシな選択肢ですが、
それも身近なものとは言いがたいのではないでしょうか。

個人的なことですが、僕は3年前に母を、先月に父を癌で亡くしました。
本書は父が死の間際に読んでいた本でもあります。
母が難しい部位の癌治療を強行して副作用による死を迎えたため、
父は体調悪化を感じると早々と抗癌剤治療を中止しました。
(両親に関しては抗癌剤の効果はまったく実感できませんでした)
最期は緩和ケア病院へ入院しましたが、そこに入るのも大変でした。
(父は緩和ケア病棟の順番待ちをしている間に一般病棟で亡くなりました)

現代社会は消費の欲望を喚起するために、
楽しいことばかりを前面に押し出し、「死」を見えない領域に追放しています。
そのため、「死すべき定め」という本来は人類全体に背負わされた原罪を、
死に直面した一部の人々だけに負わせすぎているのではないでしょうか。

ただ死んでいくだけの存在はもう労働力としては期待できない、
という資本主義社会の事情に引きずられて、
僕たちは自分自身の「定め」を見失ってはいないでしょうか?
ガワンデ一家のルーツはインドにあり、ガワンデの父の遺骨の一部はガンジス川に散骨されました。
西洋外部の価値観に連なるガワンデだからこそ、西洋医学の問題点を指摘することができたのかもしれません。

 

 

 

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