『ユダヤとアメリカ - 揺れ動くイスラエル・ロビー』 (中公新書) 立山 良司 著
- 2016.07.06 Wednesday
- 11:36
『ユダヤとアメリカ - 揺れ動くイスラエル・ロビー』
(中公新書)
立山 良司 著
⭐⭐⭐⭐
アメリカ在住ユダヤ人の葛藤
特定の団体が自己利益のために政治家に働きかけることをロビー活動といいますが、
アメリカの政治に多大な影響を与えていると噂されるのが、イスラエル・ロビーです。
1997年の「最強のロビー」調査で2位になったAIPAC(米国イスラエル公共問題委員会)がその代表ですが、
ビル・クリントンが大統領になれたのはユダヤ票が影響したとまでささやかれるほどの影響力があります。
本書によると、近年はJストリートという別のユダヤ系ロビー組織が力を持ち始めているというのです。
面白いのは、AIPACとJストリートの利害が対立していたりすることです。
2015年のアメリカとイランの核合意に対しては、
イスラエルにとっての脅威であるイランに核を持たせてはならないと、
AIPACは激しく反発しましたが、これに対しJストリートは賛成に回りました。
結果、合意が成立しAIPACは敗れました。
イスラエルにとって損なことを米在住ユダヤ人が支持するというのは、
これまでになかったことです。
立山はここに近年の米在住ユダヤ人(特に若い世代)のイスラエルに対するスタンスの変化があるといいます。
近年のイスラエルは右傾化を深めているのですが、
米在住ユダヤ人はマイノリティを擁護し多様性を重視するリベラルな思想に共感する人が多く、
自らの政治信条とイスラエルの政策が衝突することになり、
ユダヤ人であってもイスラエルに批判的な人が増えているようなのです。
Jストリートはそのような立場のユダヤ人に支持されているのです。
「基本法ユダヤ民族国家」というイスラエルで審議された法案などは、
ユダヤの民族色を強め民主主義を脅かす恐れがあると問題になったようです。
成立したらイスラエルの約20パーセントを占めるアラブ・パレスチナ人の差別をより強化しそうですし、
イスラエルが右傾化していると言われても仕方がないような気がします。
(他国で差別を受けたユダヤ人が自国では他の人種を差別するなんて、わびしいですね)
僕はイスラエルが好きではありませんが、
米在住ユダヤ人に対しては同じように考えてはいけないのだと本書から学びました。
大統領選を戦ったバーニー・サンダースはユダヤ系ですが、イスラエル批判をしていました。
健全な批判力を持っていることはリベラルの条件だと強く感じます。
立山は一章を割いて米在住ユダヤ人の多様性について書いています。
ユダヤ人の4人に1人が無神論者だというのも意外でした。
この前日本がイスラエルと防衛装備の共同研究をするというニュースがありました。
無人偵察機の研究となっていますが、イスラエルには「鉄のドーム」というロケット弾迎撃システムがあります。
そういう興味もあるのではないかと想像しますが、
日本が「東洋のイスラエル」にならないように僕たちも批判的視座を忘れてはいけないと思いました。
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