『鳥! 驚異の知能 道具をつくり、心を読み、確率を理解する』 (ブルーバックス) ジェニファー・アッカーマン 著
- 2018.04.07 Saturday
- 12:23
『鳥! 驚異の知能 道具をつくり、心を読み、確率を理解する』 (ブルーバックス)
ジェニファー・アッカーマン 著/鍛原 多惠子 訳
⭐⭐⭐
鳥はどのくらい賢いのか
その小さな脳のせいで愚かな生き物と考えられていた鳥が、実は人と似通った知性を持つ存在であることを、
サイエンスライターであるアッカーマンが様々な研究をふまえて迫っていきます。
アッカーマンはさまざまな場所へ旅をして、いろいろな鳥を紹介してくれます。
道具を用いたり、難解なパズルを解いたりすることができるカレドニアガラスは世界一賢い鳥と言われています。
その生息地であるニューカレドニアに渡ったと思うと、カリブ海のバルバドス島へと行き、
鳥のIQスケールを作ったルイ・ルフェーブルを取材しています。
鳥の知能を数値化していくことや、人間と共通するところを鳥に見出すことに懐疑的な人もいるでしょう。
アッカーマンは人間と鳥を重ねる動物学者が、擬人化と批判されることに対して、
たとえ鳥と人間の脳が根本的に異なっていても、心に共通性がないと考えて障壁を築くことはよくないと考えています。
ルフェーブルのIQスケールはイノベーションをすることが賢さの基準になっています。
鳥の認知を測定する研究はまだ日が浅く、いろいろな実験がなされていますが、
ルフェーブルは実験室ではなく野生環境で「観察」することが、認知能力の測定に役立つと考えるようになりました。
こうして得られたIQスケールで最も賢いのはやはりカラス科で、ついでオウム、インコ類、
それからムクドリモドキ、タカなどの猛禽類、キツツキ、カワセミ、カモメなどなど。
素朴な実感でも想像できるような意外性のない結果のような気もしますが。
鳥は祖先である恐竜から、大きな脳を維持しつつ体を小型化するように進化しました。
ヒナの状態のまま成体となる「幼形進化」によるものと考えられています。
それでも鳥の脳はそれほど大きいとは言えません。
大きくない脳でも霊長類に比肩しうる秘密は、大脳皮質のニューロンの数にあるようなのです。
鳥の脳は人間の脳を基準とした考えでは理解できない、別の進化をたどってきたのです。
アイリーン・ペパーバーグが哺乳類の脳をウインドウズに、鳥類の脳をアップルにたとえたという話は、
同じ結果を出すのに処理方法は一つでなくてもいい、ということがわかりやすく示されています。
アッカーマンは鳥の道具使用について述べた後、
鳥の社会性について考察を進めます。
鳥類の約80%が単婚カップルなので、同じパートナーと長く暮らすことになります。
当然のことながら、パートナーの心をつかむ協調性が重要になってきます。
セキセイインコは相手の鳴き声をどれだけ正確にマネするかで、求愛の本気度をはかっています。
興味深かったのは、鳥も浮気をするという事実です。
それもオスもメスも婚外交渉を持つことがあるようなのです。
鳥のさえずりについても書かれています。
鳥の鳴き声にも地域差、つまり方言があるというのは驚きでした。
ドイツ南部とアフガニスタンのシジュウカラでは、あまりに鳴き声が違うので、互いに内容の理解ができないようです。
また、さえずりは繁殖期はパートナーへのアプローチを目的としていますが、
それ以外の時期は鳴くことで快楽物質を得るという自分自身の利益のためだと述べられています。
ハトの帰巣本能に代表される鳥のナビゲーションについても取り上げています。
ハトは数を理解するだけでなく、統計問題を人間より正しく解答できる賢い鳥なのですが、
たとえ見知らぬ土地からでも自分の鳩舎に戻ってこられるのは、
その知能のためではなく、おそらく地球の磁場を利用しているからです。
鳥類は地磁気の傾き(伏角)のわずかな変化を感じ取って、現在の緯度を知るようなのですが、
それを感じ取るセンサーが体内のどこにあるかという話もおもしろかったです。
読むのに専門知識のたぐいが必要なほど深い内容ではありませんので、
気楽に読み進められる本ですが、やたらとボリュームがあります。
自分が気になるトピックから読み始めるのも悪くないと思います。
評価:
ジェニファー・アッカーマン 講談社 ¥ 1,404 (2018-03-15) |
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